新規変異株に対応するためには、抗体作製のスピードアップが必要
鳥取大学は10月21日、迅速にヒト抗体医薬品を創出できる創薬プラットフォーム「Express Hu-mAb System」の構築に成功したと発表した。この研究は、同大染色体工学研究センターの濱道修生特命助教、香月康宏教授、東京薬科大学の宇野愛海助教、冨塚一磨教授らの研究グループと立教大学の末次正幸教授、九州大学の福原崇介教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Molecular Therapy」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
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世界的に大流行した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、社会のさまざまな領域に影響をもたらした。創薬分野も例外ではなく、ヒト抗体医薬品開発を含め数多くの課題が浮き彫りになっている。
SARS-CoV-2ウイルスの変異は短期間に起こるため、ヒト抗体医薬品の開発から生産の期間を5~6か月まで短縮しないと、新規変異株に対応できない。世界各国の研究グループがスピードを重視した創薬プラットフォームの開発を進める中で、同研究グループはスピードに重点を置きつつ、抗体医薬品候補の開発可能性や製造可能性の要素を加味した独自の創薬プラットフォーム「Express Hu-mAb System」の構築に成功した。
完全ヒト抗体を迅速産生する「Express Hu-mAb System」を開発
今回開発した創薬プラットフォーム「Express Hu-mAb System」は、主に3つの項目から成り立っている。
1) 完全ヒト抗体産生(TC-mAb)マウスを用いることで、キメラ化やヒト化を要しない完全ヒト抗体が作製可能である。TC-mAbマウスは、抗原特異的抗体の産生に有利であることが知られている。
2) 迅速な免疫法の確立により、従来法の免疫期間(数か月)に対して、30日間で十分な抗体価の上昇を実現した。
3) シングルBセル解析技術、または抗体製造に用いられるChinese hamster ovary (CHO)細胞株を用いた哺乳類細胞ディスプレイシステムを確立し、これらを基盤とした新規モノクローナル抗体取得技術を開発した。
これらの特徴を組み合わせることで、開発可能性や製造可能性を維持した抗体再設計にも対応可能な強力な創薬プラットフォームを構築した。
オミクロン株にも対応可能な広域中和抗体を計60日間で取得
今回の研究では「Express Hu-mAb System」の実用性を検討するため、TC-mAbマウスにSARS-CoV-2武漢株のreceptor binding domain (RBD)、アルファ株/ベータ株/デルタ株のスパイクタンパク質を抗原として使用し、免疫しなかったオミクロン株も中和できる広域中和抗体の作製を試みた。従来は抗原を免疫し、この抗原に対する抗体を作製する方法が一般的だが、あえて常識とは異なる免疫法を実施した。
その結果、30日間で抗体価が急上昇する迅速な免疫法の確立に成功した。また、抗血清の解析から、オミクロン株に対する中和活性を示すマウスを選別することができた。さらに、この個体からIgG+ B細胞(IgG抗体を細胞表面に発現するB細胞)を回収し、シングルBセル解析を用いてモノクローナル抗体を取得した。この方法により、武漢株とオミクロンBA.5株を中和できるクロノタイプ11広域中和抗体の作製を30日間で達成した。
抗体再設計システムを確立し、計90日間で別の広域中和抗体の作製に成功
また、オミクロン株を中和しなかったマウス個体の免疫組織を用いて、哺乳類細胞ディスプレイシステムによる再設計された抗体遺伝子cDNAライブラリーの作製・スクリーニング法を確立した。これにより、60日間で、武漢株とオミクロンBA.5株を中和できるM5419S09Ab01広域中和抗体の作製に成功した。
迅速・高効率な抗体作製技術、COVID-19以外の感染症にも応用可能
COVID-19からの教訓、さらに今後のパンデミック対策において、迅速な対応は極めて重要である。スピード重視の観点から、今回の研究では、計60日間で広域中和抗体を作製し、中和抗体cDNAライブラリーから広域中和抗体の再設計を計90日間で行った。これらの実験結果は、「Express Hu-mAb System」が迅速・高効率かつシンプルな創薬プラットフォームであることを示している。
また、同研究のレパトア解析では、TC-mAbマウスのB細胞がCOVID-19患者の免疫応答を再現していることが明らかになっている。この結果は、ワクチン開発や評価におけるTC-mAbマウスの有用性を示唆している。哺乳類細胞ディスプレイシステムと既存抗体cDNAライブラリーを用いて機能性抗体の再設計が示され、さらなる抗体医薬品の開発への応用が有望視される。
「Express Hu-mAb Systemは、COVID-19以外の感染症にも応用できることから、今後のパンデミックの脅威に対する備えとして期待される」と、研究グループは述べている。
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・鳥取大学 プレスリリース


