骨格筋損傷後に「トホグリフロジン」が筋線維の形成を促進するメカニズムは不明だった
富山大学は10月23日、トホグリフロジンを肥満モデルマウスに投与すると、カルディオトキシンによって誘導された骨格筋損傷後に、筋線維形成が促進され、損傷からの回復が促進されることを見いだしたと発表した。この研究は、同大学術研究部医学系の内科学第一講座のムハンマド・ビラール特命助教、藤坂志帆准教授と同大未病研究センターの戸邉一之特別研究教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。

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日本人の2型糖尿病の特徴は、インスリン分泌の低下と内臓脂肪の蓄積により、肥満ではない人でも発症する点にある。内臓脂肪の蓄積や肥満は、骨格筋への脂肪沈着により機能障害を引き起こし、最終的に運動機能の低下を招き、骨格筋の萎縮を伴う「サルコペニア性肥満」と呼ばれる状態に至る。従って、インスリン抵抗性と肥満を有する2型糖尿病患者において、骨格筋機能の保護と筋形成の促進を目標とした治療戦略は、高い期待が寄せられている。
ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2i)はSGLT2を選択的に阻害し、腎臓でのグルコース取り込みを低下する作用を有し、現在、糖尿病の治療に広く使用されている。SGLT2iは高血糖により引き起こされるさまざまな臓器の機能障害に対し、多様な保護作用を有することが報告されている。しかし、骨格筋損傷モデルにおいてSGLT2iであるトホグリフロジンが筋線維の形成を促進するメカニズムは研究されていなかった。
トホグリフロジン投与で、肥満マウスの骨格筋損傷後の筋線維形成と損傷の回復促進
研究グループは今回、高脂肪食負荷による肥満マウスにおいてCTXによる急性損傷後の筋線維の回復、線維化、運動能力の改善に、SGLT2i治療がどのように作用するかを検討した。
まず、C57BL/6J雄マウスに対し、トホグリフロジンを添加した高脂肪食(HFD)または添加しないHFD、普通食を12週間摂取させた。これらのマウスにカルディオトキシン(CTX)を用いて急性損傷を誘導した。
損傷後3日、7日、10日、14日に、前脛骨筋(TA)と腓腹筋(GC)を解析。各時点において、MRIを用いて骨格筋損傷を評価した。TAとGCの冠状面および横断面は、対照群の生理食塩水群(左足)と比較して、CTXによる損傷の典型的な所見を示した(右足)。普通食マウスでのデータは、CTXによる骨格筋損傷後の生理的再生プロセスが損傷後14日時点でほぼ完了していたことを示した。総合的に、このデータは、HFD摂取マウスにおけるトホグリフロジン投与が、HFD摂取マウス群と比較してCTXによって誘導された骨格筋損傷に対する回復を促進することを示している。
さらにトホグリフロジンにより、骨格筋幹細胞マーカー遺伝子Pax7と筋線維のマーカーであるMyoGの発現が上昇。急性損傷後に骨格筋前駆細胞の活性が上昇した。加えて、トホグリフロジンはTAにおける肥満に伴うp-AMPKレベル低下を回復させ、脂肪酸酸化の増加とFAPsの活性化によるFstおよびFstl1の発現を促進し、これによりCTXにより誘導された急性損傷後のPax7陽性衛星細胞(骨格筋幹細胞)が活性化し筋修復を促進することが示唆された。総じて、トホグリフロジンがCTXによって誘導された損傷からの回復を促進することを示しており、骨格筋におけるミトコンドリア生成の上昇と筋原性修復の促進と関連していると考えられた。
また、トホグリフロジンが肥満による機能障害からFAPsを保護し、その結果、線維化を軽減し、CTXによって誘導された骨格筋損傷後の運動耐容能を向上させることも明らかになった。
肥満型2型糖尿病における骨格筋損傷の回復促進の新たな治療法開発に期待
今回の研究成果により、トホグリフロジンの投与が肥満によるAMPKリン酸化の低下を回復させ、ミトコンドリア機能も向上させ、これによって骨格筋機能を改善し、高脂肪食(HFD)を摂取した肥満マウスにおいて、CTXで誘導された骨格筋損傷後の運動耐容能を向上させたことが示された。
「本研究成果は、特に日本人で増加している肥満型2型糖尿病における骨格筋損傷からの回復を促進する新たな治療法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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