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CKDの新たな研究モデル開発、ヒト腎臓オルガノイドで老化・線維化過程を再現-科学大

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2025年11月06日 AM09:30

従来のモデルではヒト特有の老化・炎症・線維化の連鎖再現が困難だった

東京科学大学は10月22日、患者から摘出された腎臓から得た尿細管上皮細胞を用い、三次元培養系である尿細管オルガノイド「tubuloid(チュブロイド)」を構築したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の仲尾祐輝医学部医学科学生、森槙子非常勤講師、森雄太郎テニュアトラック助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Advanced Healthcare Materials」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

慢性腎臓病(CKD)は、進行性かつ不可逆的な機序を有し、世界的に患者数が増加しているにもかかわらず、根治的な治療法がいまだ確立されていない。近年、CKDの進展には、慢性的な細胞ストレスや細胞老化、それに伴う線維化が重要な役割を果たすとの仮説が注目されている。しかし、従来の動物モデルや単層培養系では、ヒト特有の老化-炎症-線維化の連鎖を忠実に再現することが難しく、薬効・毒性評価や病態機序の解明には限界があった。こうした制約を克服するためには、ヒト腎由来細胞を用いた三次元モデルの構築と、その病態制御機構の解明が不可欠と考えられてきた。

患者腎臓由来の三次元培養モデル「チュブロイド」構築、CKDの病態進行を再現

研究グループはまず、腎臓摘出手術を受けた患者から得られた腎尿細管上皮細胞を採取し、それらを三次元培養下で増殖誘導する手法により「tubuloid(チュブロイド)」を樹立した。

続いて、このtubuloidに対してシスプラチンを反復投与する実験系を設計し、時間経過および投与回数に応じて、DNA損傷マーカー(γ2AX)、細胞老化マーカー(p16、p21、LaminB1、p53など)、炎症性サイトカイン(SASP因子)、さらに線維化関連分子(コラーゲン、αSMAなど)の発現変動を詳細に評価した。

その結果、繰り返しのシスプラチン処理によって、老化マーカーの上昇、SASP分泌の亢進、線維化関連遺伝子の発現誘導といった一連の変化が再現され、CKDに特徴的な老化-炎症-線維化カスケードをヒト腎臓由来モデル上で可視化できることを示した。さらに、このモデルを創薬評価系として活用することで、薬効性化合物の評価にも応用可能であることを示唆した。

CKD治療薬の早期スクリーニングを可能に、個別化医療・移植医療への展開も期待

今回の研究成果は、ヒト由来の腎臓細胞を用いた高信頼性モデルを提供する点で、従来の動物モデルや単層培養系をしのぐ価値を持つ。特に、腎毒性評価や創薬シーズのスクリーニングにおいて、ヒト特有の老化・線維化応答を反映する評価系としての活用が期待される。今後、CKD治療薬候補化合物の早期スクリーニングや効果予測に今回のモデルを導入することで、研究開発コストの削減や成功率の向上に貢献できる可能性がある。さらに、ヒト特性を反映したこのモデルを通じて、未解明の病態進展因子の発見や個別化医療への展開にもつながることが期待される。

「今後は、本モデルを用いて未知の進展因子や制御因子の探索を進めるとともに、既存および新規化合物の毒性・有効性試験を実施し、創薬プラットフォームとしての有用性を確立していく。さらに、患者ごとの特性を反映した個別化モデルへの拡張や移植医療への応用を視野に入れ、薬剤応答予測や適応患者層の選別といった臨床指標との連携可能性についても検討を進める予定である。また、本オルガノイド技術を応用した創薬支援を事業とする大学発ベンチャーの設立も計画している」と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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