膵臓がんの治療成績改善が喫緊の課題
岡山大学は10月20日、切除可能な膵臓がんに対する術前化学療法で長期生存率が向上することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学術研究院医療開発領域(同大病院)所属の、肝・胆・膵外科の高木弘誠講師、臓器移植医療センター(肝・胆・膵外科)の安井和也助教(特任)、光学医療診療部(消化器内科)の松本和幸講師らのグループによるもの。研究成果は、「Cancers」に掲載されている。

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膵臓がんは早期発見が難しく進行が早いため、膵臓がん全体の5年全生存率は約10%と難治がんの一つである。現在、膵臓がんは「切除可能」「切除可能境界」「切除不能」に大きく分類される。切除可能な膵臓がんでも、切除後約半数の患者は再発を来す予後不良な疾患であり、その治療成績の改善が喫緊の課題である。従来、切除可能な膵臓がんに対しては、まず手術を行い(手術先行)、その後抗がん剤を半年間実施することが標準治療であった。
日本では術前化学療法(GS療法)の有効性を検証する多施設ランダム化比較試験(Prep-02/JSAP05試験)が2013年に開始され、その治療成績が2019年にASCO-GI(米国臨床腫瘍学会-消化器がんシンポジウム)で公表された。この結果を踏まえ、同院では2019年から肝・胆・膵外科と消化器内科が協力し、切除可能膵臓がんに対して「術前化学療法(GS療法)、手術、術後補助化学療法」による集学的治療を行ってきた。
術前化学療法群は約9割予定通りに完遂・全例手術、術後補助化学療法は約7割完遂
今回、同院で手術を実施した切除可能な膵臓がんに対して、術前化学療法群(81人)と従来の手術先行群(164人)を対象に治療成績を検討した。その結果、術前化学療法群では、約9割の患者で予定の術前化学療法を完遂、全例が手術を受けることができ、術後補助化学療法は約7割の患者で完遂することができた。
術前化学療法群の2年全生存率83%、手術先行群61%
長期成績に関しては、術前化学療法群の2年の全生存率は83%、手術先行群では61%で、術前化学療法の導入により有意に長期成績を改善することができた。
再発率は術前化学療法群7.5%、手術先行群22.2%
また、膵臓がんでは術後早期の再発が問題となるが、術後半年以内の再発率は、術前化学療法群で7.5%、手術先行群で22.2%と術前化学療法の導入により再発率を低下させることができた。さらに、術前化学療法を受けた患者の中でも、重篤な術後の合併症がなく、術後補助化学療法を半年間実施できた患者の成績がより良いことがわかった。
膵臓がんの術前化学療法、手術、術後補助化学療法による集学的治療の重要性を再認識
今回の研究では、切除可能な膵臓がんに対する術前化学療法の安全性と有効性を明らかにし、「術前化学療法、手術、術後補助化学療法」による集学的治療の重要性を示した。また、全国の医療機関における治療方針の参考となり、膵臓がん全体の治療成績の向上につながることが期待される。一方で、膵臓がんの手術は侵襲が大きい手術である。術後補助化学療法が十分に受けられるよう、身体的負担を考え個々の患者に適した手術を行うことが重要だ。
同院では、各科と連携して手術や化学療法、放射線治療などさまざまな治療選択肢を組み合わせる集学的治療を行っている。また、手術ではロボット支援手術を中心とした低侵襲手術を積極的に実施している。
「当院では、今後も低侵襲手術の推進や集学的治療の体制整備等、患者一人ひとりに適した治療と多職種による周術期の細やかなサポート体制を整え、早期の社会復帰と長期生存を目指していく」と、研究グループは述べている。
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・岡山大学 プレスリリース


