糖尿病患者5人に4人がスティグマを感じるも、社会での認知度は低い現状
京都大学は10月16日、同大・聖マリアンナ医科大学の医学部医学科生と両大学病院の臨床研修医を対象に、糖尿病スティグマとアドボカシー活動に関する世界初の大規模実態調査を実施したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学の村上隆亮助教、矢部大介教授、医学教育・国際化推進センターの片岡仁美教授、聖マリアンナ医科大学の中村祐太講師、曽根正勝教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Diabetes Research and Clinical Practice(DRCP)」に掲載されている。

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スティグマとは、「負の烙印」を意味し、特定の属性を持つ人に対して否定的な価値を付与することを意味する。これは知識不足や偏見によって生じるものであり、スティグマを受ける側は不当に不利益を被ることになる。糖尿病をもつ人が直面するスティグマには、「糖尿病をもつ人は寿命が短い」「糖尿病は怠惰で無責任な生活の結果である」といった誤解が含まれる。これらの偏見は患者の社会的評価を低下させ、就学、就職、結婚、生命保険や住宅ローンの審査といった重要なライフイベントにおいて不当な扱いを招くことがある。糖尿病スティグマが放置されると糖尿病をもつ人は自身の疾患を隠そうとし、適切な医療を受ける機会を逃し、結果として合併症の進展や悪化につながる可能性がある。そのため、一般社団法人日本糖尿病学会とJADEC(公益社団法人日本糖尿病協会)は、糖尿病の正しい理解を促進する活動を通じて、糖尿病をもつ人が安心して社会生活を送り、人生100年時代の日本でいきいきと過ごすことができる社会形成を目指す活動(アドボカシー活動)を2019年から開始している。しかし、糖尿病をもつ人の5人に4人が糖尿病スティグマを感じているにもかかわらず、社会での糖尿病スティグマの認知度は低いのが現状である。また、糖尿病スティグマは医療者が付与する可能性もある。糖尿病スティグマのない世界を実現するためには、まずは糖尿病スティグマがあるということを医療者が認識することが重要である。
医学生・臨床研修医対象の糖尿病スティグマ意識調査、教育段階別に4グループ解析
そこで研究グループは、未来の医療を担う医学生と臨床研修医における糖尿病スティグマとアドボカシー活動の認知度を含めた世界初の意識調査を行った。同研究では、京都大学医学部医学科、聖マリアンナ医科大学医学部医学科の1〜6年生1,369人、京都大学医学部附属病院、聖マリアンナ医科大学病院の臨床研修医238人の計1,607人を対象に、糖尿病スティグマとアドボカシー活動に関するアンケート調査を実施、57.3%にあたる921人から回答を得た。日本の医学教育では、臨床医学の授業が3年生以降に開始となり、5年生以降では実際に臨床現場で臨床実習を行うため、教育段階別に1・2年生(一般教養グループ)、3・4年生(医学講義グループ)、5・6年生(臨床実習グループ)、臨床研修医の4グループに分けて解析を行った。
糖尿病スティグマ認識、1・2年生35.7%/3・4年生以降60〜70%
その結果、糖尿病スティグマを認識していたのは全体で57.0%だった。教育段階別で比べると臨床医学の授業を受けていない1・2年生では35.7%と低く、臨床医学の講義を受けた3・4年生以降は60〜70%と高くなる傾向があった。一方、実際に臨床現場で実習あるいは業務を行っている5・6年生と臨床研修医の糖尿病スティグマの認知度が3・4年生と同程度であったことから、臨床講義は糖尿病スティグマの認知度向上に一定の効果はあるものの、それ以降の医学教育プログラムに課題があることがわかった。
約40%「糖尿病は寿命が短い」など誤ったイメージ
さらに、糖尿病をもつ人に対するイメージに関する質問では、約40%が「糖尿病は遺伝病である」や「糖尿病をもつ人は寿命が短い」といった誤ったイメージを持っており、「糖尿病をもつ人は食事や運動などの自己管理ができていない」といった糖尿病スティグマにつながるイメージをもつ人が臨床研修医で最も多いという結果となった。このことから、糖尿病スティグマを認識していたとしても、糖尿病に関する正しい理解からは程遠く、正しい知識を持たないまま臨床現場に足を踏み入れることで、誤ったイメージが固定化される危険性が高いことがわかった。
糖尿病スティグマ認識群、共感性スコア高
また、糖尿病スティグマを認識している群では自身や医療者がスティグマに寄与する可能性があることを認識していたため、まずは糖尿病スティグマについて認識してもらうことが糖尿病スティグマのない世界の実現には重要であることもわかった。さらに、Jefferson Scale of Empathyという共感性の指標となる質問用紙も用いて解析を行ったところ、糖尿病スティグマを認識している群では、共感性スコアが高かったことから、医学教育を通じて共感力を維持・強化するための介入が必要であることが示唆された。
糖尿病スティグマを体系的に扱うための医学教育カリキュラムの強化が急務
以上のことから、医学生および臨床研修医における、糖尿病スティグマとアドボカシーに関する理解は依然として十分ではなく、臨床教育・臨床実習を経ても根強い誤解があることがわかり、糖尿病スティグマの根絶には糖尿病スティグマを体系的に扱うための医学教育カリキュラムの強化が急務であることが明らかとなった。
同研究の結果を受け、糖尿病に対するスティグマのない世界の実現に向けて、効果的な医学教育カリキュラムの開発が行われることが期待される。さらに、日本国内だけでなく、アジアを含む西太平洋地域の各国と協力し、同様の研究を行うことで、世界規模で現在の医学教育の効果と課題を明らかにし、効果的な国際医学教育プログラムの開発へ貢献する予定である、と研究グループは述べている。
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