再生医療で期待される腎臓オルガノイド、臨床応用には課題も
熊本大学は6月23日、多能性幹細胞から尿管組織を作ることに成功したと発表した。この研究は、同大発生医学研究所・腎臓発生分野の伊比裕太郎氏(大学院生)、西中村隆一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」のオンライン版に掲載されている。

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腎臓は人体の恒常性維持を担う重要な臓器だが、再生しない。腎不全により人工透析を受けている患者は日本国内だけでも34万人を超えており、腎移植の機会も限られていることから腎臓の再生医療に期待が集まっている。
近年の幹細胞生物学の進歩により、多能性幹細胞から腎臓組織を人工的に作ることが可能になっている。同グループはこれまで、多能性幹細胞から腎臓を構成する前駆細胞の誘導法を世界に先駆けて確立し、特にマウスES細胞から複雑な三次元構造(高次構造)を有する腎臓組織(腎臓オルガノイド)を作ることに成功している。しかし、この腎臓オルガノイドには、産生された尿の排泄経路である「尿管」は付随しておらず、このことが腎臓オルガノイドを移植医療に応用する際のボトルネックになっている。
尿管オルガノイドの作製法は未確立
尿管は上皮と間質で構成され、これらの前駆細胞の相互作用により発生する。これらのうち、尿管上皮の前駆細胞(尿管芽)への誘導法は、同グループを含め複数報告されているが、残る尿管間質の前駆細胞への誘導法は世界的に見ても確立されていなかった。
そこで今回の研究では、尿管間質の前駆細胞を多能性幹細胞から誘導する方法を確立し、マウス胎仔由来の尿管上皮もしくは多能性幹細胞から誘導した尿管芽と組み合わせることで、多能性幹細胞から尿管組織を作ることを目指した。
尿管間質の発生メカニズムを解明、培養条件を確立
まず、胎児期のマウス腎臓と尿管を用いて、尿管間質の前駆細胞に特徴的な遺伝子群や、その発生メカニズムを同定した。
次に、尿管間質の前駆細胞の起源である後方中間中胚葉と呼ばれる組織を単離し、それを尿管間質の前駆細胞まで誘導する培養条件を確立した。
多能性幹細胞から尿管間質前駆細胞誘導、マウスで尿管組織の作製に成功
これらを基に、マウスES細胞とヒトiPS細胞から後方中間中胚葉を経由して尿管間質の前駆細胞を誘導する方法を開発した。
誘導した尿管間質の前駆細胞を、マウス胎仔由来の尿管上皮や多能性幹細胞から誘導した尿管芽と組み合わせて試験管内で培養することで、分化した尿管組織を作ることに成功した。
さらに、これらの方法は、尿管に異常をきたす遺伝子の機能解明に利用できることも示した。
世界初の尿管オルガノイド、尿管疾患の病態解明に応用可能
今回の研究では、尿管間質の前駆細胞の誘導法を確立し、生体内の尿管上皮や誘導した尿管芽と組み合わせることで、人工的な尿管組織の作製を実現した。尿管という生体内で腎臓が機能を発揮するために必須な構造を、試験管内で多能性幹細胞から構築することに成功した初めての報告であり、このオルガノイドは尿管に異常がみられるさまざまな疾患の病態解明に応用が可能だ。
腎臓オルガノイドとの統合で移植用臓器の開発に期待
また、同グループが確立した高次構造を有する腎臓オルガノイドと繋ぎ合わせることができれば、尿の産生から排泄までの臓器本来の機能を有する腎臓オルガノイドを作製し、移植医療に応用できる可能性がある。「今後のステップとして、尿管オルガノイドの質を高め、腎臓オルガノイドにつなげていく」と、研究グループは述べている。
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