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食後血糖上昇の早期コントロールが寿命延長につながる可能性-東北大ほか

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2025年07月10日 AM09:10

糖尿病なし平均62歳の大迫町住民対象、糖負荷後の血糖値と寿命の関係を評価

東北大学は6月23日、岩手県大迫町の地域住民を対象に行われている大迫研究のブドウ糖負荷試験のデータを解析した結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科糖尿病代謝・内分泌内科学分野および東北大学病院糖尿病代謝・内分泌内科の今井淳太特命教授、片桐秀樹教授、佐藤大樹医師(現みやぎ県南中核病院)、東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室の目時弘仁教授、佐藤倫広講師、帝京大学医学部衛生学公衆衛生学講座の大久保孝義主任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PNAS Nexus」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

糖尿病の発症を抑えることで死亡のリスクが低下することが知られている。しかし、糖尿病を発症する前の「正常」といわれている血糖値の中でもさらに死亡リスクの低下につながる範囲があるのかは不明であった。

大迫研究は岩手県の大迫町の地域一般住民を対象に、1986年から約40年にわたって継続的に健康状態のチェックやさまざまな検査を行っており、その結果が蓄積されている。また、この研究では4年に1回、参加者にブドウ糖負荷試験を行っていた。糖負荷試験は糖尿病の診断に用いられる検査で、ブドウ糖入りのジュースを飲む前と飲んだ後120分の血糖値の値によって診断される。そこで今回の研究では、大迫研究で蓄積されている、糖尿病のない平均62歳の地域住民を対象に、糖摂取後の血糖値と寿命の関係を評価した。

糖負荷後1時間血糖値170mg/dl未満群、心臓疾患や悪性腫瘍による死亡が少ない

研究の結果、糖負荷後1時間血糖値が170mg/dl未満の群で170mg/dl以上群と比較して平均14.3年の観察期間内の死亡が少ないことが明らかになった。さらに、糖負荷後1時間血糖値が170mg/dl未満の群では、動脈硬化による心臓疾患や悪性腫瘍による死亡が顕著に少ないこともわかった。

研究グループはまず、糖負荷試験を行った993人について、糖負荷試験以外も含めた検査結果と死亡との関連を調べた。その結果、さまざまな検査結果の中で、年齢や肥満度、喫煙などの既知のリスク因子の影響を調整した上でも、糖負荷試験での糖負荷後1時間血糖値が死亡と強く関連することを発見した。そこで、参加者を糖負荷試験負荷後1時間血糖値の高い群と低い群の中央値(負荷後1時間血糖値162mg/dl)の2群に分けて生存の経過を解析したところ、負荷後1時間血糖値が低い群で生存者が多いことが明らかになった(P値<0.0001)。

これらの参加者の中には既に糖尿病を発症している人たちも含まれ、糖負荷試験を行っているため、正常、予備群、糖尿病を診断できる。そこで正常と診断された595人だけを抽出して糖負荷後1時間血糖値をどの値で区切った時に死亡と最も関連するのかを調べた。その結果、糖負荷後1時間血糖値を170mg/dlで区切った際に、死亡と最も強く関連することがわかった。

この結果を元に糖負荷試験負荷後1時間血糖値が170mg/dl未満群と170mg/dl以上群で生存の経過を解析したところ、170mg/dl未満群では観察開始後20年の時点で8割近くの人が生存していたのに対し、170mg/dl以上群では5割近くの人が亡くなっている、という統計的な有意差が認められた(P値<0.0001)。大迫研究では参加者の死亡原因のデータも蓄積されていることから、さらにこれらの人たちの死亡原因を調べた。その結果、負荷後1時間血糖値が170mg/dl未満群では170mg/dl以上群と比較して動脈硬化による心臓疾患(P値<0.0001)や悪性腫瘍(P値<0.0014)による死亡が顕著に少ないことが明らかになった。同研究の結果から、正常と診断される血糖値の中でも、さらに死亡リスクの低下につながる範囲があることが明らかになった。

糖尿病の前段階から糖負荷後の血糖上昇に対処で、心臓疾患など発症予防の可能性

今回の研究結果から、糖尿病になる前の段階から糖負荷後の血糖上昇に対処することで、心臓疾患や悪性腫瘍の発症を予防し寿命を延ばすことにつながる可能性が示された。また、現在、糖負荷後1時間血糖値は糖尿病の診断基準に含まれていない。病気の発症を抑えて寿命を延ばす、つまり健康長寿を促進するためには、今後、糖尿病の診断の際に糖負荷後1時間血糖値を考慮していく必要があることも示唆される、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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