IgA腎症における「糸球体内皮細胞」に関する正確な情報は不明だった
北里大学は6月12日、ヒトIgA腎症の発症・悪化に糸球体内皮細胞の炎症が関与することを先端的解析技術によって証明したと発表した。この研究は、同大医学部腎臓内科学の内藤正吉准教授、川島永子助教と、協和キリン株式会社 (研究本部) の長谷川久美氏、松原正浩氏らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Communications Biology」にオンライン公開されている。

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IgA腎症は、世界中で最もよく見られる原発性糸球体腎炎だが、いまだ決定的な治療法が存在しない。IgA腎症はガラクトース欠損IgA1(Gd-IgA1)を含む免疫複合体が糸球体メサンギウム細胞に沈着する疾患と定義されるが、血液中に存在するGd-IgA1がメサンギウム細胞に沈着する原因はまだよくわかっていない。
最近、自然発生IgA腎症動物を用いたシングルセルRNAシークエンス(scRNA-seq)の解析で、糸球体内皮細胞における炎症により血管透過性が亢進し、Gd-IgA1がメサンギウム細胞に沈着することが報告された。しかし、患者組織に関するscRNA-seq解析が行われていたものの、個々の細胞の位置情報は不明だった。そのため、IgA腎症における糸球体内皮細胞に関する正確な情報は不明だった。
IgA腎症患者における糸球体内皮細胞クラスター同定、発現遺伝子プロファイルも同定
研究グループは今回、軽症IgA腎症患者と健常者の腎組織を用いて、scRNA-seqで得られた情報と空間トランスクリプトーム解析(ST-seq)とを統合することで、組織における位置情報を保持しながら遺伝子発現を網羅的に測定することに成功した。
同解析から新たに、解剖学的に糸球体に位置する糸球体内皮細胞のクラスターおよび発現遺伝子プロファイルが同定された。さらに、軽度IgA腎症の糸球体内皮細胞で病態関与が示唆される新規炎症関連分子も同定された。
メサンギウム細胞よりも糸球体内皮細胞で活発な炎症反応を確認、新規病態機序を提案
また、軽症IgA腎症患者の糸球体内皮細胞で亢進している炎症反応経路を同定。さらに、軽症IgA腎症患者ではメサンギウム細胞よりも糸球体内皮細胞で活発な炎症反応が観察されていたことから、病態として「糸球体内皮細胞の炎症反応が亢進することで、血管内皮細胞の透過性が亢進し、メサンギウム細胞にGd-IgA1が沈着する」という機序が提案された。
軽症IgA腎症患者への効果的な治療薬選択に重要な情報となる可能性
IgA腎症は、現在でも根治療法が確立されておらず、本症を原因として透析療法が必要となる患者が後を絶たないが、世界中で創薬研究が盛んに進められている疾患でもある。同研究で得られた知見は、軽症IgA腎症患者に対するより効果的な治療薬を選択する際に重要な情報をもたらすと考えられる。
「複雑な構造を持つ腎臓は患者組織内の構造を反映させることが課題だったが、本研究で確立された新しい手法を利用して、腎疾患に対する新薬開発や疾患活動性に対するマーカー探索が加速することが期待される」と、研究グループは述べている。
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