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小型で安価な新型コロナウイルス世界最速検出装置「COWFISH」を開発-理研ほか

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2022年10月31日 AM10:57

新型コロナウイルス全自動検出装置「opn-SATORI装置」を小型・低コスト化

理化学研究所(理研)は10月27日、新型コロナウイルス()由来のウイルスRNAを「1分子」レベルで識別し、世界最速で検出できる安価な小型装置を開発することに成功したと発表した。この研究は、理研開拓研究本部 渡邉分子生理学研究室の渡邉力也主任研究員、安藤潤研究員、飯田龍也テクニカルスタッフI、 先端科学技術研究センターの西増弘志教授、京都大学医生物学研究所の野田岳志教授、東京医科歯科大学の武内寛明准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Lab on a Chip」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

現在、(COVID-19)の感染診断では、主にウイルスのタンパク質抗原を検出する方法(抗原検査法)と、ウイルスRNAを増幅して検出する方法(PCR検査法)が利用されており、それぞれスクリーニングや確定診断など、用途に応じて使い分けられている。抗原検査法は30分程度で迅速かつ簡便にウイルスを検出できるため、スクリーニングには適しているが、検出感度や特異度の低さに起因する検出エラーの多さが問題になっている。一方、PCR検査法は感度が優れ、確定診断に適しているが、検出の前処理に最短で1時間程度かかるため、大量の検体を迅速に解析し、診断につなげることが困難だ。そのため、PCR検査法の「感度の高さ」と、抗原検査法の「迅速・簡便さ」を両立させた新しいウイルス検出法の開発が期待されている。

この背景も踏まえ、研究グループは2022年度に、世界最速の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の全自動検出装置「opn-SATORI装置」を開発した。同装置はCRISPR-Cas13aと呼ばれる酵素と微小試験管を集積したマイクロチップを用いることで、SARS-CoV-2由来のウイルスRNAを「1分子」レベルで識別し、9分以内の世界最速の迅速検出を可能とする全自動装置だ。検出感度は1.4コピー/マイクロリットル(μL、1μLは100万分の1リットル、PCR検査法とほぼ同等)で、臨床検体を用いた検証実験では、陽性判定および変異株判定において98%以上の正解率を達成しており、従来技術と検出原理の異なる革新的な装置だった。

しかし、横幅120cm、奥行70cmと大きく、検出部が共焦点顕微鏡で構成されるため、非常に高価であるなどの課題を抱えていた。社会実装を想定すると、大規模な検査センターや大病院には設置できる可能性はあるものの、迅速検出の利点を最大限に活用できる市中のクリニックや検疫所に設置することは難しく、小型化および低コスト化した新装置の開発が期待されていた。

研究グループは今回、opn-SATORI装置の検出部を小型化・低コスト化し、その装置を「Compact Wide-field Femtoliter-chamber Imaging System for High-speed digital bioanalysis:」と名付けた。COWFISHは、従来のopn-SATORI装置の検出部を一から再設計するとともに、COVID-19診断検査の律速過程の一つである「蛍光画像の撮像時間」の大幅な短縮に成功した。

小型化により低コスト化に成功、最短3分の迅速検出が可能で陽性判定の正解率95%

改善点としては、opn-SATORI装置と比較して設置面積比で約5分の1以下まで小型化(横幅35cm、奥行45cm、高さ30cmの卓上サイズ)、構成部品の総額を120万円程度と約30分の1以下まで低コスト化することに成功した。

また、テレセントリックレンズと市販の一眼レフカメラを用いることで、大面積の視野を高精細に撮像することが可能になるとともに、最短3分の迅速検出を実現した。

SARS-CoV-2の検出感度はopn-SATORI装置の検出部である共焦点顕微鏡とほぼ同等で、また、臨床検体を用いた実証実験では、陽性判定において95%の正解率を達成したという。

「次世代の感染症診断装置」となることに期待

今回の研究により、ウイルスRNAを1分子レベルで識別して世界最高速度で自動定量し、さらには陽性判定へとつなげることができる小型かつ安価なウイルス感染症診断装置「COWFISH」が開発された。同装置は60万個の微小試験管を一度に撮像できるため、検出時間の大幅な短縮が実現し、安価で素早く多種のウイルス感染症を正確に診断できる、次世代の感染症診断装置となることが期待される。

「COWFISHは大規模検査センターだけでなく、迅速検出のニーズの高い市中のクリニックや検疫所に設置され、臨床現場即時検査(POCT)を実施するための基盤装置となることも併せて期待できる」と、研究グループは述べている。

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