医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 知的障害を引き起こす、CaMKIIαリン酸化酵素の異常亢進を明らかに-東大ほか

知的障害を引き起こす、CaMKIIαリン酸化酵素の異常亢進を明らかに-東大ほか

読了時間:約 3分1秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年09月02日 AM11:15

CaMKIIαの変異によって、知的障害を引き起こす仕組みは十分にわかっていない

東京大学は9月1日、脳が正常に働くために適切に活性化することが重要であるCaMKIIα(カムケーツーアルファ)にP212L変異(212番目のアミノ酸がプロリンからロイシンに変化している変異)があることによって、CaMKIIαが異常に活性化して知的障害を引き起こしていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の藤井哉講師、尾藤晴彦教授、名古屋大学大学院医学系研究科の城所博之助教、名古屋大学環境医学研究所/大学院医学系研究科の竹本さやか教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in molecular neuroscience」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

脳の機能には、神経活動に伴うCa2+の濃度上昇によってCaMKIIαが適切に活性化して、さまざまなタンパク質をリン酸化することでシナプスの特性を変えることが重要である。近年、ゲノム解析によって知的障害や発達障害、精神疾患の患者からさまざまなCaMKIIαの変異が見つかってきている。こうした変異によってCaMKIIαの機能が異常になっていることが予想されるが、実際にこれらの変異がCa2+によるCaMKIIαの活性化をどのように変化させるのかを調べた研究はほとんどなく、知的障害を引き起こす仕組みは十分にわかっていなかった。

P212L変異を持ったCaMKIIαは野生型に比べて活性化が亢進

今回、研究グループは知的障害のある患者に対して全エクソームシークエンス解析を行い、CaMKIIαの遺伝子にP212L変異を認め、それが両親から受け継いだものではなく患者で新しく獲得されたde novo変異であることを明らかにした。P212L変異は知的障害から見つかったCaMKIIαの変異の中では最も報告例数の多いものであり、これまでの研究ではタンパク質の安定性やCaMKIIα自身に対するリン酸化、神経細胞の移動に対する影響が調べられたが、変異のない野生型との違いが認められず、P212L変異によってCaMKIIαの機能がどのように変わるのかはわかっていなかった。

研究グループは、こうしたことから、CaMKIIαの特に重要な特徴であるCa2+/CaMによる活性化を定量的に、感度よく、効率的かつ手軽に計測して比較する必要があると考えた。そのために、CaMKIIαの活性化を蛍光で検出できるFRETプローブを使って、細胞から抽出した溶液や生きた神経細胞・シナプスでCaMKIIαの活性化を計測できるシステムを独自に開発した。細胞から抽出した溶液を使った実験から、P212L変異を持ったCaMKIIαは変異のない野生型に比べてCa2+/CaM依存的な活性化が亢進していることが明らかになった。次に、神経細胞では、グルタミン酸の光融解刺激に対して、CaMKIIαの応答の大きさが増大し、さらに活性化の上昇は速く、下降は遅くなっており、全体として活性化が異常に亢進していることを世界で初めて明らかにした。また、樹状突起のシナプスの中でも、P212Lは活性化応答が大きくなっていた。CaMKIIαは刺激の頻度が高くなるほど活性化が大きくなる頻度依存的な応答を示し、脳の機能に重要であると考えられているが、P212Lではこの頻度と応答の関係が、より低頻度の刺激でも大きな応答を示すようにチューニングされていることを明らかにした。

CaMKIIαの活性化の異常亢進、認知症の治療薬で抑えられることを確認

こうした解析を、これまでに知的障害の患者から見つかっている9つのCaMKIIαのde novo変異にも適応したところ、そのうちの6つでもCaMKIIαの活性化の異常亢進が起きていることを明らかにした。こうした異常活性化を抑えることが治療戦略になると考えられるが、今のところCaMKIIαの阻害剤で臨床応用されている薬剤はない。そこで、認知症の治療薬として用いられるメマンチンを使って上流のCa2+を阻害することでP212L変異体の異常活性化を抑えられることを示し、新たな治療コンセプトを提示した。

CaMKIIαの異常な活性化亢進を抑制する治療法の開発、知的障害メカニズムの解明に

今回の成果に基づいて、今後CaMKIIαの異常な活性化亢進を抑えることで知的障害を治療できるかを明らかにすることが重要な課題である。また、疾患モデル動物などを作成することで、CaMKIIαの異常な活性化亢進によってどのように知的障害が引き起こされているのか、その発症のメカニズムの解明につながると考えられる。「CaMKIIαは知的障害に加えて発達障害や統合失調症の患者からもさまざまな変異が見つかっているので、今回新しく開発した計測システムによって新たな発症機構の解明や治療コンセプトの提示につながると考えられる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 肺がんの新規ALK阻害薬治療抵抗性、EGFRシグナルの関与を発見-京都府医大ほか
  • 妊娠時低酸素曝露が仔ラットの骨格筋に影響、DOHaD学説の新知見-東京医科大ほか
  • 妊娠成立に必要な胚着床機構をマウスで解明、不妊症の原因究明に期待-麻布大ほか
  • 【インフルエンザ流行レベルマップ第3週】定点当たり報告数9.59に増加-感染研
  • ヒトの持久運動パフォーマンス向上に貢献する腸内細菌を発見-慶大先端研ほか