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加齢による認知機能低下、グリア細胞由来の治療標的候補分子を発見-九大ほか

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2022年08月03日 AM10:53

加齢による認知機能低下を改善するメカニズムは不明だった

九州大学は8月1日、グリア細胞に由来する分子による「コンドロイチン硫酸プロテオグリカン()」の発現制御が、加齢によって低下する認知機能の改善に重要であることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学系学府の前田祥一郎大学院生、同大大学院医学研究院の山田純講師、神野尚三教授の研究グループと、神戸薬科大学の北川裕之教授らとの共同研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Pharmacology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

高齢化が進行している現代の日本では、加齢に伴い認知機能が徐々に低下し、認知症に至る高齢者が増加している。従来から認知機能が低下する原因として、神経細胞の機能不全や減少が重要と考えられており、認知症の治療薬は神経細胞を主なターゲットとして開発されてきた。しかし、加齢によって低下した認知機能の改善を可能にするメカニズムについては十分に理解されていない。

研究グループは以前、マウス海馬の神経幹細胞の微小環境を構成しているニッチに関する詳細な解析を行い、CSPGが神経新生の促進と認知機能の制御に重要であることを明らかにしていた。一方で近年、CSPGの合成と分解は、グリア細胞由来分子による制御を受けていることが明らかになりつつある。そこで研究グループは今回、神経細胞のグルタミン酸受容体の阻害剤として開発され、抗認知症薬として認知症の治療に処方されている「」を用いて、海馬のCSPGとグリア細胞由来の分子に対する作用を解析し、加齢によって低下する認知機能の改善を可能にする未知のメカニズムを同定することを目指した。

メマンチンを投与した加齢マウスの作業記憶とエピソード記憶が改善

最初に、若齢マウスと加齢マウスを用いて、記憶や学習の中枢である海馬におけるCSPGの発現量と、神経幹細胞や新生神経細胞の分布密度を比較したところ、いずれも加齢マウスで減少していることが判明した。次に、メマンチンを加齢マウスに投与したところ、海馬のCSPGの発現量と新生神経細胞の分布密度が回復する結果が得られた。

メマンチンを投与した加齢マウスの認知機能を評価したところ、海馬依存性の作業記憶(作業の実行に必要な情報についての短期的な記憶)とエピソード記憶(経験に関する長期的な記憶)の両方が改善していることがわかった。

CSPGの主要な合成酵素の発現がメマンチン投与で「増強」

そこで、加齢マウスの海馬におけるニッチ関連分子についての遺伝子発現解析を行った。その結果、CSPGの主要な合成酵素であるCSGalNAcT1やC6STの発現がメマンチンの投与によって増強されることを見出した。一方、CSPGの分解酵素であるMMP9の発現はメマンチンの投与後に低下していた。

グリア細胞由来分子がCSPG発現量の増加を介して神経細胞の産生を促進

さらに、加齢マウスの海馬のCSPGを選択的に分解する実験に取り組んだ。その結果、海馬のCSPGが消失した加齢マウスでは、メマンチンを投与しても新生神経細胞の増加が起こらないことや、作業記憶やエピソード記憶の改善が起こらないことが明らかになった。これまでの研究によって、ニッチ関連分子であるCSGalNAcT1やMMP9はグリア細胞によって産生されることが明らかにされている。

今回の研究結果は、これらのグリア細胞由来分子が、神経幹細胞のニッチであるCSPGの発現量の増加を介して神経細胞の産生を促進し、加齢による認知機能低下を改善する鍵を握っていることを示唆している。

グリア細胞をターゲットとする「認知症治療薬」の開発を目指す

今回の研究成果により、加齢に伴い低下する認知機能を改善するためには、神経幹細胞のニッチであるCSPGの発現を制御する分子による神経新生の促進が重要であることが明らかにされた。

「今後は、これらのグリア細胞由来分子の発現を調節するメカニズムを同定し、認知機能の改善を可能にしている基本原理を明らかにしたいと考えている。さらに、神経細胞をターゲットにしてきた従来の抗認知症薬に代わる、グリア細胞をターゲットとする革新的な認知症の治療薬の開発につなげることを目指している」と、研究グループは述べている。

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