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希少疾患の未診断期間長期化の要因、「診断を探す行動が不十分」な可能性-阪大

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2022年04月04日 AM11:30

未診断期間中、患者はどう受診し、体の不調をどう理解していたか

大阪大学は3月19日、)の患者に、未診断期間の経験に関するインタビュー調査を実施し、治らない症状に患者が長年苦しんでいても、当時の患者や医療者は「診断が難しい疾患()」に罹患している可能性に思い至らず、このために正しい診断を得るまでの年数が長期に及んだ場合があることが明らかになったと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の磯野萌子大学院生(博士課程)、小門穂招へい准教授(医の倫理と公共政策学/神戸薬科大学准教授)、加藤和人教授(医の倫理と公共政策学)の研究グループによるもの。研究成果は「PLOS ONE」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

難病・希少疾患領域では、患者は何年にもわたって“Diagnostic Odyssey(診断をつけるための終わりのない旅)”を続けるといわれている。すでに診断方法の確立した疾患でも、患者は正しい診断を得るまでに平均4~9年程度を要し、この間、患者は複数の医療機関での不要な検査や誤診を経験する。しかし、この期間に関する報告は、未診断期の平均年数や受診した医療機関の数などの数量的なデータに限られ、患者が実際に医療機関をどのように受診し、自分の体の不調をどう理解していたのかといった側面は、これまで明らかにされていない。

一方、各国で問題の解決に向けた取り組みが進められている。日本では、2018年の厚生労働省の通知により、「早期に正しい診断ができる」体制構築が開始された。しかし、特に日本では、政策的な問題解決に関する動きが行われているものの、患者の経験に関しては数量的報告も乏しく、実情把握が十分になされていない状況がある。

HAE患者9人にインタビュー、確定診断まで平均で約23年

研究グループは、患者が実際に抱えた問題を把握し、現在の対策が適切かどうかを検討する必要があるのではないかと考え、難病・希少疾患の一つである遺伝性血管性浮腫(HAE)の患者の経験に着目した。HAEは、全身に浮腫を繰り返し起こす疾患で、患者は手足など体表面の腫れや、嘔吐や下痢などの症状を発作性に生じる。症状の1つの喉頭浮腫は、気道閉塞という致死的状況を起こすが、診断がわかっていれば発作時の治療が可能だ。診断の重要性が高い一方、日本での未診断期間の平均年数は13~15年と報告されている。

対象は、症状が出てから確定診断までに5年以上を要したHAE患者。9人の患者が研究への参加に同意し、1人あたり1時間半程度のインタビューが行われた。得られた内容は、「内容分析」という手法を用いて分析された。参加者がHAEの症状初発から診断が確定するまで要した年数は、平均で約23年。HAEと異なる診断を受けた経験や奏功しない治療の経験が多く報告された。

「症状や病院での対応に慣れ」を経験した患者も

分析の結果、長きにわたる未診断の期間、患者は症状に苦しみ、さまざまな困難に直面していたことがわかった。未診断期の困難に関する経験は、「症状への慣れと諦め」「積極的な原因探究」「病院外での独自の試み」という大きく3つのテーマに分けられた。

「症状への慣れと諦め」というテーマでは、参加者はさまざまな経験や考えを経て、多くは最終的に自分の状態に慣れ、諦めていくことが報告された。例えば、手足の腫れなどの目に見える腫れの際には、患者は「訳がわからなくて」複数回異なる病院を受診していた。しかし、病院でほとんど明確な診断や説明がつかず、「なんでだろうね」「様子を見ましょう」と言われる経験をする。こうした経験を繰り返すうち、患者は自らの体質と諦めたり、「大した問題ではない」と判断し、病院を受診しなくなっていくことがわかった。

また、腹痛や嘔吐などの腹部症状の際には、「この痛みをなんとかしてほしくて」など、治療を求めて病院を受診していた様子が明らかになった。5人の患者は特定の病名はつかず、「胃腸風邪」などと言われ、高次の病院の紹介も経験していなかった。ただし特定の病名がついていない場合にも、症状が激しい参加者は、発作の度に同じ病院への受診を繰り返していた。一方で、腹部症状の場合にも、精神的な要因での説明を受ける経験や、HAE以外の診断名に基づく治療で症状が悪化した経験をした患者は、受診を諦めていったこともわかった。

当てのない検査や受診を繰り返す傾向、生活や食事の記録を取るといった経験も明らかに

「積極的な原因探究」というテーマでは、少数の患者による、自らの状態を異常だとみなし積極的に異なる病院・診療科を受診するなどの経験が含まれた。医療者も一緒になって診断を探している場合でも適切な情報に辿り着くことが難しく、当てのない検査や受診を繰り返す傾向が報告された。

最後に、「病院外での独自の試み」のテーマでは、患者が病院以外の場で、独自に行った症状改善に向けた取り組みが報告された。症状を引き起こす原因を明らかにするために生活や食事の記録を取るといった経験などが語られた。中には、貧血や無月経を引き起こすほどの食事制限を独自に行っていた場合もあった。

全体を通して、未診断の期間中に診断を探そうとしていた患者は少数で、多くの患者は難病・希少疾患に罹患している可能性を疑わずに、自分の体調や病院での対応に慣れ、何年も症状を抱えながら生活していたことがわかった。

早期に難病・希少疾患を疑うための施策が必要

研究成果により、未診断期間の長期化をもたらす最も重要な要因の1つは、患者や医療者が難病・希少疾患を疑わず、診断を探す行動を十分に行っていないことだと明らかになった。現在の政策では、難病・希少疾患を疑ってから明確に診断をつけるまでの体制整備に焦点が当てられている。これに対し、研究結果は、患者や医療者が「難病・希少疾患」に罹患している可能性に気づきやすくする(つまり、早期に「難病・希少疾患」を疑う)ための施策が必要であることを強く示唆した。「研究をもとに体制整備を行うことで、難病・希少疾患の患者に早期に診断をつけることが可能になると期待される」と、研究グループは述べている。

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