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脱毛症治療薬+抗HIV薬併用、新型コロナに高い抗ウイルス効果の可能性-東京理科大ほか

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2021年06月07日 AM11:30

承認済み薬剤を対象にスクリーニング試験実施

東京理科大学は6月3日、白血球減少症治療薬/脱毛症治療薬セファランチンとHIVプロテアーゼ阻害薬ネルフィナビルの併用が、レムデシビルやクロロキン単剤よりも新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して高い抗ウイルス効果を示すことを突き止めたと発表した。この研究は、同大理工学部応用生物科学科の大橋啓史研究員、渡士幸一客員教授(国立感染症研究所治療薬・ワクチン開発研究センター治療薬開発総括研究官兼任)、倉持幸司教授、同大学薬学部生命創薬科学科の青木伸教授、田中智博助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」にオンライン掲載されている。

SARS-CoV-2によって引き起こされる新型コロナイウルス感染症()は世界中で猛威をふるい続けており、ワクチンに加えて治療薬の開発も火急の課題となっている。現在、もともとはエボラ出血熱の治療薬として開発されたレムデシビルなどアメリカ食品医薬品局(FDA)承認済みの薬剤や、新規薬剤のCOVID-19に対する有効性を検討する研究が数多く進められている。

今回の研究では、SARS-CoV-2に感染させたVeroE6/TMPRSS2細胞を用い、すでに承認されている薬剤を対象にスクリーニング試験を実施した。さらに、実験で得られた抗ウイルス活性と肺における薬物濃度をもとに作成した数理モデルから、臨床現場におけるSARS-CoV-2の動態も予測した。

+ネルフィナビル併用、ウイルス生活環の異なるステップに作用

感染細胞実験でのスクリーニング試験の結果、セファランチンとネルフィナビルを含む承認薬が高い抗ウイルス作用を示した。今回研究グループが行ったtime-of-addition試験の結果、セファランチンはウイルスと細胞の吸着を主に阻害すると示唆された。これは、セファランチンが他のヒトコロナウイルス(OC43)の侵入を減少させるという先行研究と一致する結果だ。

スパイクタンパク質とセファランチンの関係については、同研究で十分な検証ができていない。しかし、SARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質を標的としたワクチン開発が現在世界中で進められていることからも、今後、セファランチンが中和抗体の抗ウイルス活性を増強するのか、またワクチンに抵抗性を示すウイルス株にも有効性を示すのかを明らかにすることが求められるとしている。

ネルフィナビルは、これまでの研究から他の種のコロナウイルスSARS-CoVの複製を阻害することが報告されており、同研究から、SARS-CoV-2に対しても抗ウイルス活性を示すことが明らかになった。ネルフィナビルは、μMオーダーの濃度でもSARS-CoV-2の複製を阻害することが感染実験から示され、またメインプロテアーゼの触媒活性を阻害することもin vitro酵素アッセイ系で証明された。

このように、セファランチンとネルフィナビルはウイルスの生活環の異なるステップに作用することから、併用によってより高い抗SARS-CoV-2効果が期待される。

臨床アウトカム改善だけでなく、伝播を抑えるという観点からも有効か

SARS-CoV-2の動態を予測した数理モデルからは、ネルフィナビルは治療期間を通じて臨床濃度で有意な抗ウイルス作用を示し、その結果として累積ウイルス量を約8%に、ウイルス排除に要する期間を約4.9日に短縮すると推定されたという。

一方、セファランチンは、現在の白血球減少症治療薬に用いられる経口投与量では抗ウイルス作用が得られず、静脈投与によって肺中薬物濃度を高めることにより持続的な抗ウイルス効果が可能になると推定された。

ウイルス量の累積は疾患の進行と他者への伝播リスクを高めることから、同研究で提案するような異なる作用機序を持つ薬剤の併用投与は、臨床アウトカムの改善だけでなく、伝播を抑えるという観点からも有効であると考えられる、と研究グループは述べている。

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