CKD患者におけるルビプロストンの有効・安全性、腎機能への直接的な影響は?
東北大学は9月1日、慢性便秘治療薬「ルビプロストン」の腎保護作用を世界で初めて臨床試験で確認したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科病態液性制御学分野および医工学研究科分子病態医工学分野の阿部高明教授、同大大学病院腎臓・高血圧内科の渡邉駿医師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」に掲載されている。

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慢性腎臓病(CKD)は成人の有病率が高く、効果的な治療法が限られている。そのため、末期腎不全や透析に至る患者数は年々増加傾向にある。近年CKD患者に多い便秘や、それに伴う腸内細菌叢の乱れが尿毒症毒素の蓄積や全身の炎症を引き起こし、腎機能低下を加速させる一因と考えられてきた。
研究グループはこれまでの動物実験で、慢性便秘治療薬(ルビプロストンやリナクロチドなど)が尿毒症毒素を減少させ、腎機能を改善することを報告してきた。しかし、ヒトのCKD患者におけるルビプロストンの有効性と安全性、特に腎機能への直接的な影響は明らかになっていなかった。
CKDステージIIIb~IVの患者118人を対象に、ルビプロストンの有効性などを検証
研究グループは、ルビプロストンによる腎不全進行抑制効果の検証のため、2016~2019年にかけて、日本の9つの医療機関(東北大学病院、東京慈恵会医科大学附属病院、地域医療機能推進機構仙台病院、虎の門病院(分院腎センター内科/リウマチ膠原病科)、秋田大学医学部附属病院、千葉大学医学部附属病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院、山形大学医学部附属病院、福島県立医科大学附属病院)で、多施設共同臨床試験(LUBI-CKD TRIAL)を実施した。
同研究ではCKDステージIIIb~IVの患者118人を対象に、ルビプロストン(8μgまたは16μg/日:国内未承認用量)あるいはプラセボを24週間投与し、その有効性と安全性を評価した。
腎機能において、ルビプロストン16μg群で「eGFR低下を有意に抑制」
その結果、主要評価項目の尿毒症毒素(インドキシル硫酸)の血中濃度に有意な変化は見られなかった。一方、副次評価項目である腎機能においてルビプロストン16μg群では、eGFRの低下がプラセボ群と比較して有意に抑制された(p = 0.0457)。この効果は特に中等度の腎機能障害(eGFR 36-45ml/min/1.73m2)を持つ患者において8μg、16μgの両群で顕著だった。安全性については主な副作用(薬との関係がわかっていないものも含む)は軽度~中等度の消化器症状であり、全体として良好な忍容性が確認された。
ルビプロストン投与<短鎖脂肪酸産生善玉菌の増加<ミトコンドリア機能改善・腎保護効果
次に、ルビプロストンの腎保護効果のメカニズムを解明するため、臨床試験の患者検体(血液、尿、便)を用いたマルチオミクス解析を実施した。その結果、ルビプロストン投与群では短鎖脂肪酸を産生する善玉菌であるBlautia属やRoseburia属などが増加していた。さらにこれらの細菌が持つポリアミン合成酵素遺伝子(agmatine deiminase, aguA)DNA量が増加し、それに応じてポリアミンの一種である血中のスペルミジンの濃度が上昇していることがわかった。
そこで、腎不全モデルマウスにスペルミジンを経口投与したところ腎機能が改善し、ミトコンドリアの形態異常と機能不全が回復することが確認された。加えてヒト腎尿細管細胞を用いた実験でもスペルミジンがミトコンドリアのATP産生能を高めることが示された。
これらの結果から、ルビプロストンは腸内細菌叢を介してスペルミジン産生を促し、腎臓のミトコンドリア機能を改善することで腎保護効果を発揮するというこれまで知られていなかった作用機序が強く示唆された。
CKDのみならず、ミトコンドリア異常疾患の治療開発への応用に期待
今回の研究は、慢性便秘治療薬ルビプロストンが「腸内細菌-ポリアミン-ミトコンドリア」という新たな経路を介して腎保護作用を発揮することを、ヒト臨床試験の解析から世界で初めて示した点で画期的だ。この発見は、これまで尿毒症毒素の低減を主目的としてきた従来のCKD治療の考え方を大きく転換させる可能性がある。
「今後は、より大規模な集団で本試験結果の検証を行うとともに(臨床第3相試験)、治療効果を予測するバイオマーカーの探索を進めることで、CKD患者一人ひとりに最適な治療法の提供を目指す。さらに、CKDのみならずミトコンドリア異常疾患の治療開発への応用が期待される」と、研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース・研究成果


