双極性障害の病態に「視床室傍核」と「側頭葉内側部」は関連するのか?
順天堂大学は9月2日、双極症(双極性障害)における視床室傍核の顆粒空胞変性とタウ病理の関与を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科精神・行動科学の加藤忠史教授と、東京都立松沢病院の永倉暁人医師(順天堂大学大学院医学研究科博士課程大学院生)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」のオンライン版に掲載されている。

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双極性障害は、躁・うつ状態という極端な気分変動がみられることが特徴的な精神疾患の一つ。双極性障害を高頻度に伴うミトコンドリア病の原因遺伝子の変異を脳特異的に発現させたモデルマウスを作製したところ、反復性のうつ状態を示し、このマウスの脳内では視床室傍核に変異ミトコンドリアDNAが蓄積していたことから、この部位が双極性障害の病態に関わる可能性が疑われていたが、実際に双極性障害患者死後脳で視床室傍核を調べた研究は、報告されていなかった。
そこで研究グループは今回、双極性障害患者死後脳において、視床室傍核に加えて側頭葉内側部についても検討を加えた。
双極症患者23人の死後脳を解析、視床室傍核に「顆粒空胞変性」という病変を同定
視床室傍核は、セロトニン神経などからの強い投射を受け、感情に関わる、いわゆる辺縁系と呼ばれる脳部位(扁桃体、側坐核、前部帯状回など)に投射するため、感情の調節に関わっていると考えられて注目され、マウスなどの動物で近年盛んに研究されている。しかし、ヒトの視床室傍核を調べた研究は非常に少ないのが現状だ。
今回の研究では、以前から精神疾患患者死後脳の蓄積を進めてきた都立松沢病院の脳試料を用いて、9人の双極性障害患者で視床室傍核を調べるとともに、側頭葉内側については、米国スタンレー医学研究所ブレインバンクの14人の試料と合わせて23人での解析を行った。
その結果、視床室傍核において、顆粒空胞変性と呼ばれる、アルツハイマー病患者の海馬などで見られる神経変性に特徴的な所見が9人中5人に見られ、対照群(9人中0人)より有意に多いことを見出した(p<0.05)。また、顆粒空胞変性がみられた5人中4人は、高齢発症(40歳以上)患者だった。
双極症患者の死後脳で「タウタンパク」が蓄積
また、側頭葉内側では「神経原線維変化」と呼ばれるタウ病変が、双極性障害患者の39.1%(23人中9人)と、対照群(11.1%、9人中1人)に比べ有意に多く見られ(p = 0.015)、ブラークステージという確立した神経原線維変化の評価法で評価すると、双極性障害患者で有意に高いステージを示した(p<0.05)。また、嗜銀顆粒という別種のタウ病変を評価する方法(齊藤ステージ)でも、有意に高いステージを示した(p<0.05)。
若年発症患者における視床室傍核の意義は今後の課題
今回、研究グループが双極性障害患者の死後脳において初めて視床室傍核を調べた結果、顆粒空胞変性という、顕微鏡で観察可能な病変が見出された。これは、精神疾患とされてきた双極性障害が、脳の病気であることを示している。
しかし、この病変を示した患者は、ほとんどが高齢発症の患者だった。双極性障害は通常20歳前後に発症する疾患であるため、一般の若年発症患者における視床室傍核の役割は、今後の課題と言える。
双極症の病態解明、新たな診断・治療法の発見に期待
また今回、側頭葉内側部の検討により、タウ病変が多く見られることがわかった。タウ病変はアルツハイマー病でも見られるが、双極性障害患者で見られた病変は、アルツハイマー病で見られるアミロイド病変を必ずしも伴わないことから、むしろPART(原発性加齢関連タウ病変)というべきものだ。
「双極性障害患者におけるタンパク質の蓄積は、既に死後脳および脳画像によって報告されており、本所見はこれらの研究を裏付けるものである。今回見出された視床室傍核の顆粒空胞変性およびタウ病変に着目したさらなる研究開発によって、新たな診断法・治療法につながると期待される」と、研究グループは述べている。
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