医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 特発性肺線維症、ブレオマイシンは細胞老化経由で間接的に促進-名古屋市大

特発性肺線維症、ブレオマイシンは細胞老化経由で間接的に促進-名古屋市大

読了時間:約 1分54秒
2025年09月09日 AM09:20

抗がん剤ブレオマイシン、肺線維化を引き起こす詳細なメカニズムは未解明だった

名古屋市立大学は9月1日、抗がん剤ブレオマイシンが肺線維化を直接引き起こすのではなく、病変のある肺で老化を進行させることで線維化を促す可能性があることを明らかにしたと発表した。今回の研究は、同大名古屋市立大学大学院医学研究科神経発達症遺伝学の三浦陽子氏、ミラドナディア研究員、高田晶帆氏、金澤智客員講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Aging」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

特発性肺線維症(IPF)は進行性の間質性肺疾患であり、高齢者に多く発症し、組織学的には線維化とともに細胞老化の関与も示唆されている。

一方、抗がん剤ブレオマイシンは、ヒトに対する副作用として肺線維症を引き起こすことが知られており、この副作用を応用した肺線維症誘導モデル動物は医学研究に広く用いられてきた。しかし、ブレオマイシンがどのような機序で肺線維化を誘導するのかは、いまだ十分に解明されていない。今回の研究では、IPF病態を有する肺にブレオマイシンが与える影響について、特に細胞老化や細胞死との関連に着目した。また、肺組織切片(Precision-cut lung slices:PCLS)を用いた実験手法によりその作用機序の解明を試みた。

ブレオマイシンによる線維化、細胞老化促進による二次的作用と判明

今回の研究により、ブレオマイシンは正常肺において直接線維化を促進するのではなく、既に病態を有する肺、特に老化の進行したIPF肺において、細胞老化をさらに進行させる作用を持つことが明らかになった。また、老化が進行すると細胞内の核膜構造の維持が困難となり、細胞死が誘導されることが観察された。この細胞死が引き金となり、二次的に線維化が進行する可能性が示唆された。

少ない動物資源で毒性・線維化・老化を評価する新手法を開発

さらに、PCLSを用いた解析により、肺組織における毒性評価、線維化進展、老化指標の定量的評価を、少ない動物資源で高効率かつ定量的に評価可能であることも実証された。これらの成果は、IPF病態の理解を深めるとともに、細胞老化を介した線維化進行の新たなメカニズムの解明や、肺線維症薬・抗がん剤の副作用評価法の高度化に貢献することが期待される。

IPFの病態理解に新たな視点を提供

今回の研究は、抗がん剤ブレオマイシンがIPFにおいて線維化を直接促進するのではなく、老化促進と細胞死を介して間接的に線維化の進行に寄与する可能性を示した点で、IPFの病態理解に新たな視点を提供した。さらに、PCLS技術を活用することで、従来よりも少ない動物資源で効率的かつ再現性の高い肺組織解析が可能となり、今後の薬剤評価や病態研究の発展に寄与することが期待される。

「社会的には、高齢化社会における呼吸器疾患治療の高度化や新規治療標的の開発につながる成果であり、将来的には患者のQOL(生活の質)改善や医療負担軽減につながる可能性がある」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 重症心不全の回復予測因子を同定、IDH2/POSTN比が新たな指標に-東大ほか
  • 急変する環境での集団意思決定パフォーマンスを改善する仕組みを解明-東大ほか
  • コーヒーと腎機能の関係、遺伝的多型が影響の可能性-徳島大ほか
  • リンチ症候群、日本人の病的バリアント大規模解析で臨床的特徴が判明-理研ほか
  • 変形性膝関節症の高齢者、身体回転のイメージ形成が困難に-大阪公立大