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抗PD-L1抗体治療耐性にPGE2が関与、ウシで発見-北大ほか

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2020年12月23日 PM12:00

COX2阻害剤併用でウシへのがん免疫療法の効果増強、そのメカニズムは?

北海道大学は12月22日、免疫チェックポイント阻害薬抗PD-L1抗体の処置により誘導されるプロスタグランジンE2(PGE2)が、抗体治療効果を減弱させるという新たな耐性獲得機構を解明したと発表した。この研究は、同大大学院獣医学研究院、同人獣共通感染症リサーチセンター、東北大学未来科学技術共同研究センター/医学系研究科抗体創薬研究分野の研究グループによるもの。研究成果は、「ImmunoHorizons」に掲載されている。


画像はリリースより

ヒトのがん医療において、免疫チェックポイント阻害薬を始めとした免疫療法が、外科的療法、化学療法、放射線療法に加えて第4の治療戦略として注目されている。抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体等の免疫チェックポイント阻害薬は一部の患者に対して劇的な奏効を示す一方で、その奏効率は20~30%と報告されており、治療効果を減弱させてしまう耐性獲得機構の解明や治療効果を高める他の薬剤との併用療法の開発が強く求められている。獣医学領域では、同研究グループがウシやイヌに対する免疫チェックポイント阻害薬を開発し、牛伝染性リンパ腫 (旧名:牛白血病) やイヌの口腔内悪性黒色腫に対する治療効果を報告してきた。また、ウシの研究においては抗PD-L1抗体とPGE2の産生を抑制するCOX-2阻害剤の併用が、その治療効果を増強させることも報告した。一方で、併用療法により治療効果が増強されたメカニズムに関しては不明だった。

ウシではPGE2がEP4を介してT細胞の活性化を阻害

研究グループは今回、まず、ウシの血液を材料に、免疫学的な実験手法により抗PD-L1抗体投与後のPGE2動態、抗PD-L1抗体によるPGE2誘導機序、受容体EP4を介したPGE2の免疫抑制効果を解析した。また、ウシ血液及びマウス脾臓の免疫細胞を材料に、抗PD-L1抗体とEP4阻害剤の免疫活性化効果を評価。さらに、リンパ腫モデルマウスに抗PD-L1抗体とEP4阻害剤を投与して、抗腫瘍効果の検討を行った。

その結果、抗PD-L1抗体を単独で投与した牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)感染牛では、投与後に血中のPGE2濃度が上昇することを確認。試験管内での解析により、抗PD-L1抗体により免疫応答が活性化して炎症性サイトカインの1つであるTNF-αの産生が亢進し、このTNF-αを介してPGE2の産生が誘導されることを明らかにした。また、PGE2は受容体EP4を介してT細胞の活性化やサイトカイン(IL-2、IFN-γ)の産生を阻害することも確認した。

抗PD-L1抗体+EP4阻害剤で、マウスでも抗腫瘍効果の増強を確認

一方で、抗PD-L1抗体とEP4阻害剤を併用すると免疫応答をより強く活性化できることが判明。この知見はマウスの免疫細胞を用いた実験でも観察されたことから、リンパ腫モデルマウスを用いた抗腫瘍効果の評価を実施。両薬剤を併用すると、腫瘍体積が減少しマウスの生存が延長する効果が確認された。

動物種によらない共通のメカニズムの可能性、ヒトへの応用に期待

今回の研究で、抗PD-L1抗体は免疫賦活効果を発揮する一方、別の免疫抑制物質PGE2を誘導し免疫療法の効果を減弱させていること、並びにPGE2の作用を抑制するEP4阻害剤との併用が免疫療法の効果を増強させることが示された。同研究で得られた知見は、獣医学領域のみならずヒトの研究にも応用できる可能性がある。研究グループは今後、今回の研究成果を広く活用し、獣医療並びにヒト医療の向上を目指した応用研究を展開していく予定だとしている。

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