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ASD、シナプス機能異常と社会性低下の原因となる脳領域を発見-東大ほか

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2020年10月14日 PM12:30

ASD原因候補遺伝子「CNTNAP2」「AHI1」に着目

東京大学は10月12日、)の原因候補遺伝子を利用し、シナプス機能異常と社会性低下の因果関係や社会性低下の原因となる脳領域をマウスでつきとめたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科機能生物学専攻神経生理学分野教授/国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)副機構長・主任研究者の狩野方伸氏、同研究科機能生物学専攻神経生理学分野の酒井浩旭大学院生(研究当時)、同研究科機能生物学専攻神経生理学分野講師(研究当時)(現:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科認知神経生物学分野教授)の上阪直史氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」のオンライン版に掲載されている。

ASDは、発症する頻度割合が100人に1人以上の疾患。その中核症状は、社会的コミュニケーション障害と常同行動・限定的興味行動だ。小児期に疾患が明らかとなり生涯に渡って症状は続くが、現在有効な治療薬は存在せず、社会的に大きな問題となっている。

近年、大規模な遺伝子解析によって多数のASD原因候補遺伝子が報告されている。このうちの多くがシナプスに局在するタンパクをコードしていることから、ASDの病態としてシナプスの機能異常が考えられている。しかし、それぞれのASD原因候補遺伝子と社会的コミュニケーション障害などのASD行動との関連性、さらにシナプス機能異常とASD行動との因果関係は不明な点が多く残されている。

今回の研究では、ASD原因候補遺伝子として良く知られている「CNTNAP2」と「AHI1」遺伝子に着目。これまでの動物実験による知見から、CNTNAP2遺伝子はシナプス機能、ASD類似行動について複数報告されているが、AHI1遺伝子はASD類似行動に関連するのか、どのようにシナプス活動を制御するのかは全く不明なままだった。


画像はリリースより

CNTNAP2発現抑制マウスでは、社会性行動が低下しコミュニケーションを反映する超音波発声が減少

まず、研究グループは、社会性行動に重要な脳領域を同定するため、in utero electroporation法を用いて、マウス大脳皮質前頭前野の3分2の層錐体細胞特異的にCNTNAP2遺伝子の発現を抑制し、シナプス機能と行動を包括的に解析。前頭前野3分2層錐体細胞のCNTNAP2遺伝子の発現低下により、グルタミン酸による興奮性シナプス伝達およびγアミノ酪酸(GABA)による抑制性シナプス伝達が低下していた。

抑制性シナプス伝達の強さと興奮性シナプス伝達の強さを、これらの比を計算して比較すると、抑制/興奮バランスが増加していた。また、CNTNAP2発現抑制マウスは社会性行動が低下し、マウスのコミュニケーションを反映すると考えられている超音波発声が減少しており、前頭前野3分2層錐体細胞がASD病態に重要な脳部位である可能性が明らかとなった。

大脳皮質前頭前野3分2層錐体細胞における興奮性シナプス伝達標的が有効か

次に、前頭前野3分2層錐体細胞のAHI1遺伝子の発現を低下させ、シナプス機能と行動を解析。その結果、抑制性シナプス伝達は正常だったが、興奮性シナプス伝達が低下し、抑制/興奮バランスが増加していた。

また、行動解析の結果では、CNTNAP2発現抑制マウスと同様、社会性行動の低下と超音波発声の減少が見出された。よって、シナプス機能およびASD類似行動におけるAHI1遺伝子の役割が明らかとなった。

最後に、両遺伝子の共通の異常である興奮性シナプス伝達の減少に注目し、興奮性シナプス伝達を増強させる薬剤(CX546)を投与。その結果、CNTNAP2もしくはAHI1遺伝子発現低下による前頭前野3分2層錐体細胞の興奮性シナプス伝達異常が正常化し、社会性行動障害も回復した。これらの結果から、ASDの治療戦略として大脳皮質前頭前野3分2層錐体細胞における興奮性シナプス伝達を標的とした創薬が有効である可能性を見出した。

遺伝子-シナプス機能-ASD類似行動の因果関係解明で、多様なASDの病態が明らかに

ASDは、多くの原因候補遺伝子がシナプス結合や神経伝達物質の調整に関連する遺伝子であることから、その主要病態のひとつとしてシナプス異常が提唱されている。また、ASDは多様性の高い疾患で、その病態と考えられるシナプスの変化として相反する結果が報告されていることから、個々の原因候補遺伝子がシナプス機能に果たす役割とASD類似行動との関連を解明し、それぞれの異常を分類することが重要だ。これらにより、ASDをグループ分けし、それぞれのグループに対して治療戦略や治療薬を開発することが必要となる。

今回の研究により、大脳皮質前頭前野3分2層錐体細胞の興奮性シナプス伝達低下が、あるグループのASDで見られる共通のシナプス病態である可能性が考えられる。また、興奮性シナプス伝達を増強させることが特定のASD患者の治療に有効である可能性を見出した。

今後、多くのASD原因候補遺伝子に関して、遺伝子-シナプス機能-ASD類似行動の3つの因果関係を明らかにすることで、多様なASDの病態が解明され、シナプス機能に基づく体系的ASD治療法の開発が促進されることが期待される、と研究グループは述べている。

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