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NaCl調節因子「ペンドリン」が、治療抵抗性高血圧を起こす仕組みを解明-東大先端研

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2020年02月13日 AM11:15

接続尿細管と皮質集合管の間在細胞に発現しNaCl制御の関わる「

東京大学先端科学技術研究センターは2月8日、腎尿細管の食塩再吸収を調節する新規の因子として注目されているPendrinが、生体の体液バランスに関与するホルモン受容体であるミネラロコルチコイド受容体(MR)により制御される仕組みを見出し、この仕組みがサイアザイド系利尿薬による治療に抵抗性の高血圧の形成に関与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター臨床エピジェネティクス寄付研究部門の藤田敏郎フェローと鮎澤信宏特任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of American Society of Nephrology」に掲載されている。


画像はリリースより

高血圧は世界中で多く見られる疾患で、日本においても約4000万人が罹患すると言われている。これまで複数の降圧薬が開発されてきたが、今なお効果が不十分な症例も少なくなく、動脈硬化および心血管疾患の重大なリスクとなることが知られる。高血圧の発症には食塩(NaCl)が関与するが、体内のNaClの排泄は主に腎臓の尿細管により調節されるため、腎臓は高血圧発症に深く関与する。特に最終的な調節部位である遠位側の尿細管は重要で、この部位のNaCl再吸収機構の亢進は高血圧発症に直結するため、その阻害薬である利尿薬は降圧薬として利用されている。実際、遠位曲尿細管に発現するNaCl輸送体であるNCCを阻害するサイアザイド系利尿薬は優れた降圧・予後改善効果を有し、高血圧治療の第一選択薬の1つとなっている。しかし、利尿薬治療中に一部の患者では昇圧ホルモンであるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系()の亢進を伴って治療抵抗性となることや、副作用として低カリウム血症や代謝性アルカローシスが見られることが問題だった。

最近、接続尿細管および皮質集合管の間在細胞に発現する「Pendrin」が、NaCl調節に関わる新しい因子であることが判明した。PendrinはアンジオテンシンII(AII)やアルドステロン投与時に活性化し、その制御にはアルドステロン受容体であるミネラロコルチコイド受容体(MR)が関わることが示唆されていた。しかしMRを介したPendrin制御の詳細なメカニズムや、それがどのように高血圧発症に関与するのかは不明だった。

サイアザイド系利尿薬投与によるRAAS系の亢進や、低K血症・代謝性アルカローシスが、Pendrinを活性化して高血圧に

この点を解明するため、今回研究グループは、遺伝子改変技術を用いて間在細胞のMRを欠損するマウスを作成して解析を行った。その結果、野生型マウスにアンジオテンシンIIの持続注入や食塩摂取制限(内因性アンジオテンシンIIの増加刺激)を行うとPendrinとNCCが共に上方制御されたが、間在細胞MR欠損マウスではPendrinの上方制御が抑制された。また、野生型では食塩制限下にサイアザイド系利尿薬を投与するとNCCの抑制を代償してPendrinがさらに活性化され血圧は維持されたが、間在細胞MR欠損マウスではPendrin上方制御が抑制され高度の血圧低下が見られた。以上からアンジオテンシンII刺激時には間在細胞のMRを介してPendrin上方制御が起き、この機構がNCC抑制時に代償的に活性化され、その結果血圧が維持されることがわかった。

一方、野生型マウスに高食塩食・アルドステロン投与を行うと、低カリウム血症や代謝性アルカローシスとともにPendrinとNCCが活性化され、高血圧を示した。しかし、アルドステロンによるPendrin活性化や高血圧は間在細胞MR欠損マウスにおいても抑制されず、Pendrin活性化が間在細胞のMRの有無に関係なく生じたことから、アンジテンシンII刺激時とは異なる経路の存在が考えられた。他方、主細胞のMRとその標的であるENaCの阻害や、高カリウム食投与により低カリウム血症とアルカローシスを補正するとPendrinの活性化が有意に抑制されたことから、アルドステロン投与時には主細胞のMRを介したENaCの活性化により引き起こされた低カリウム血症およびアルカローシスがPendrinの活性化を起こすことがわかった。さらに、炭酸脱水素酵素阻害薬の投与によりアルカローシスのみを補正した場合もPendrin活性化が抑制されたことから、アルドステロン投与時にはアルカローシスがPendrin活性化を起こしていることが示された。最後に、NCC欠損マウスに高食塩食・アルドステロン投与を行ったところ、低カリウム血症・アルカローシスとともにPendrinの活性化が起き、その結果高血圧が持続して見られたことから、アルドステロン過剰状態ではPendrin制御機構がNCCと協調して高血圧の発症維持に働いていることが示唆された。実際、この実験系においてアルカローシスを補正したところPendrin抑制とともに降圧が得られた。

今回の研究成果により、サイアザイド系利尿薬投与時に見られるRAAS系の亢進や、これまでに単に副作用として考えられていた低カリウム血症・代謝性アルカローシスが、Pendrinを活性化することで、高血圧を生じることが示唆された。これら2経路はMR拮抗薬の投与により遮断できるため、利尿薬治療抵抗性の高血圧の治療においてMR拮抗薬が新たな治療戦略となる可能性を提案するもの。さらに、現在開発中のPendrin阻害薬は新規の降圧利尿薬となり得ると考えられる。また、アンジオテンシンIIによるMR活性化機構や、アルカローシスによるPendrin制御の仕組みなどについても研究が進みつつあり、新たな治療標的の発見が期待される。

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