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「息を吐くときに注意力が高まる」ことを、認知心理学の手法で実証−千葉大

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2019年07月29日 PM12:15

注意力に対して呼吸法が果たす役割を調査

千葉大学は7月25日、物体の動きの変化に対する人の呼吸が与える影響を調べ、動きの変化に早く反応できるのは息を吐いている時であることを初めて科学的に実証したと発表した。この研究は、同大大学院人文科学研究院の一川誠教授が率いる認知心理学の研究チームによるもの。研究成果は日本視覚学会の学術誌「Vision」に掲載されている。


画像はリリースより

スポーツ科学において、呼吸法とパフォーマンスの関係は、研究者たちの注目を集めてきた。例えば、高い筋力を必要とするウェイトリフティングの場合、息を吐き切る瞬間にバーベルを持ち上げることが有効とされてきた。また、剣道の指導などでは、「吐くは実の息、吸うは嘘の息」と表現され、息を吸っている時には隙ができやすいことが経験的に共有されてきた。しかし、筋力のような身体能力ではなく、認知能力が関わる「」に対して、呼吸法が果たす役割を調べた研究はこれまでほとんどなかった。

武道などで重要視されていた呼吸法の正しさ証明

視覚を介した注意には「外発的注意」と「内発的注意」の2種類があるとされる。バレーボールで例えると、選手が予想外のフェイントによって思わず惹きつけられる注意が外発的注意、相手が打った球に自分で狙いを定める注意が内発的注意にあたる。

研究チームは、これらの2つの注意について、呼吸の仕方が及ぼす影響を調べた。実験では16人の大学生を対象に、画面上の左右どちらかの四角の枠の中に提示される×印の位置をなるべく速く答えてもらう課題を用いた。課題には、「瞬間的に枠の明るさが変化する手がかりで強制的に注意を惹きつける外発的注意条件」と、「矢印による手がかりで意識的に注意を向けさせる内発的注意条件」を設けた。また、これらの手がかりがターゲットに対して間違っている場合と正しい場合の2条件を設けた。呼吸については、呼吸の仕方(吸う時・吐く時)、タイミング(呼吸中・呼吸後)の4条件を設けた。

実験の結果、内発的注意条件下で、手がかりが正しい場合の反応は、手がかりと×印の時間差が400msの時に息を吐く時で反応がより早まり、手がかりが間違っている場合の反応の遅れは、呼吸後に息を吸う時に大きくなることが明らかになった。一方、外発的注意条件下では、手がかりが間違っている場合の反応の遅れが、吸う息より吐く息で大きくなることがわかった。

これにより、外発的注意と内発的注意では、反応を早める呼吸の仕方が異なるものの、自発的に相手の動きに注意を向ける場合には、息を吐いている時に反応がより早くなる傾向が認められた。

剣道などの武道の指導では、「」という、下腹に意識を集中させ、吸う息を短く、吐く息を長くする呼吸法の重要性が強調される。武道では、相手の動きに意識的に注意を向けることが求められる場面が多いため、こうした呼吸法は理にかなっていると考えられる。これにより、武道などの指導でこれまで経験的に言われてきた息を吐くことの重要性が、認知心理学の観点からも正しいことが確認された。研究グループは、「本研究から派生する研究が、駆け引きのあるすべてのスポーツに良い影響をもたらすことを願っている。今後は呼吸によって人間の認知的な能力をどこまで上げられるのか解明したいと考えている」と、述べている。

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