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心臓線維化と拡張障害型心不全に関わる「メフリン」の分子メカニズム解明−名大ら

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2019年06月26日 PM12:15

心臓線維化を制御する分子メカニズムを明らかに

名古屋大学は6月24日、さまざまな心疾患に関わる現象である「心臓線維化」を制御する分子メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学院医学系研究科の原昭壽客員研究者、高橋雅英教授、室原豊明教授、榎本篤准教授らと、国立循環器病センター研究所の齋藤茂芳上級研究員らとの共同研究グループによるもの。研究成果は、米心臓学会雑誌「Circulation Research」電子版に掲載された。


画像はリリースより

心不全には「収縮障害型心不全」と「拡張障害型心不全」の2つのタイプに分けられる。左心室が縮む力が低下した状態の収縮障害型心不全は、昔からよく知られ、治療も研究され、発展している。一方、左心室が広がりにくいことによって生じる拡張障害型心不全は、加齢や高血圧、虚血性心疾患、心筋症、、糖尿病などで心臓の線維化が誘導されることが示されている。しかし、どのようなメカニズムが心臓線維化を誘導し、どんな治療が有効なのか、詳細はわかっていない。

線維化は、コラーゲンなどを多く含む細胞外構成タンパク質(細胞外マトリクス)が過剰に蓄積し、正常な組織と置き換わってしまう現象。線維化により臓器は固くなったり、正常に機能しなくなったりする。この線維化に密接に関わっているのが、細胞外マトリクスタンパク質を多量に産生する機能をもつ筋線維芽細胞だ。病的な状態で分泌されるタンパク質「」は、筋線維芽細胞の活性化を誘導し、線維化を促進する。また、これまでの研究で、筋線維芽細胞は心臓に存在する線維芽細胞が変化した細胞であるということが明らかにされていた。

メフリンの発現を誘導する薬剤が、拡張障害型心不全に有効な治療薬となる可能性

研究グループは、心臓に存在する線維芽細胞に発現している分子「」に着目。メフリンを持つ細胞を培養し、メフリンを強制的かつ多量に発現させる遺伝子操作を行ったところ、筋線維芽細胞への変化が起こりにくいことが判明した。反対に、メフリン発現を抑制する遺伝子操作を行うと、より多くの細胞が筋線維芽細胞に変化した。さらに、今までに線維化に関わる因子として報告があるTGF-β、低酸素環境、基質硬度の高い環境、加齢などの要素で、細胞のメフリン発現が抑えられてしまうことがわかった。

そこで、メフリンを全く持たない動物はどのような変化を起こすのかを見るため、メフリンを体内で作れないように遺伝子操作したノックアウトマウスを作成。このマウスに心不全を誘導する手術を行ったところ、通常のマウスに比べて心臓の壁が厚く、より繊維化の強い、硬い心臓になることがわかった。この特徴は、高齢者の「拡張障害型心不全」によく似ていたという。また、心臓線維化を抑制する因子BMP7とメフリンが分子的に結合すること、メフリンを多く発現する細胞ではBMP7の効果が増強されることを発見した。このことにより、メフリンはBMP7とともに筋線維芽細胞の活性化に抑制的な作用をもつこと、メフリンが不足した状態は拡張障害型心不全の病態に関わることが示された。

今回の研究により、病態に不明点が多く、特異的な治療選択肢がなかった拡張障害型心不全の病態の一部が解明されたことで、創薬につながることが期待される。研究グループは、「今後、メフリンを投与した動物で心不全が改善する、などの結果が得られれば、メフリンそのものまたはメフリンの発現を誘導する薬剤が有効な心不全治療薬となる可能性がある。また、病的な線維化は心不全だけでなく、腎不全・肝不全・がん・各種肺疾患にも関わる全身的な現象だ。さらなる研究を進め、多くの線維性疾患の治療につながることを期待している」と、述べている。

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