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ネガティブ思考の人は、心臓外科手術後のせん妄・昏睡期間が長引くと判明-筑波大

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2019年05月29日 PM12:45

物事をネガティブに考えやすく、我慢強い「タイプD」

筑波大学は5月27日、「ネガティブな考えを抱きやすい一方で、それを表出できない傾向を併せ持つ」というタイプD性格の患者は、心臓外科術後にせん妄・昏睡期間が長引くことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系 救急・集中治療医学の井上貴昭教授、同大学院生の松石雄二朗、医学医療系心臓血管外科学の平松祐司教授らの研究グループによるもの。研究成果は、心理学系雑誌「BMC Psychology」で公開されている。


画像はリリースより

近年、医学的な治療経過に性格が影響しているとして、特に「タイプD性格(物事をネガティブに考えやすい一方で、我慢強く、その思いを表出できないような性格)」が注目されている。先行研究によると、タイプD性格の心血管疾患患者は、それ以外の性格の患者と比べ、5年間の死亡リスクが約4倍高いことも報告されている。さらに、うつ症状は急性期認知機能障害「」の発生因子であることが広く知られているが、タイプD性格の人はうつ症状をきたしやすい傾向もある。

せん妄は術後などに生じる意識障害で、心臓外科術後の患者の26~52%に生じるとされる。これまで、うつ症状と術後せん妄の関係に関する研究は広く行われてきたが、その背景にある因子として疑われる、タイプD性格を持つ患者と術後せん妄の関連に関しては、明らかにされていなかった。

集中治療が必要な状況でも患者の性格に対する考慮が重要

そこで研究グループは、長い期間で備わったタイプD性格であるという特徴と、一時的に生じる症状であるうつ症状、そして精神医学上の症状であるせん妄という3つの点の関係性を解明するため、検証を行った。過去1年間について、同大学附属病院で心臓血管外科手術を受ける患者を対象に、術前に性格判断とうつ症状に関する質問を行うとともに、術後の1週間におけるせん妄や昏睡状態などの意識状態を観察。その結果、対象者142名中、せん妄発症率は34%、タイプD性格の患者は37人(26%)で、タイプD性格患者のせん妄発症率は、非タイプD性格患者と比べ、高い傾向を認めたという(45%vs30%)。また、術後1週間のせん妄および昏睡期間(DCDs)を急性脳機能障害が生じている期間と定義し、順序ロジスティック回帰を用いて多変量解析を行った結果、タイプD性格自体が、DCDsのリスク因子であることが判明した。さらに、タイプD性格患者と非タイプD性格患者を比較すると、タイプD性格患者では、うつ症状がDCDsに与える影響が強いことも明らかになった。加えて、媒介因子解析を行ったところ、タイプD性格とDCDsの関連性を部分的にうつ症状が媒介していることも分かったという。

今回の研究により、長い期間で備わったタイプD性格という特徴によって、せん妄・昏睡などの急性脳機能障害が長引きやすいこと、また、一時的に生じる症状であるうつ症状が、これらの関係性を媒介していることが明らかとなった。さらに、タイプD患者と非タイプD性格患者では、うつ症状の点数が急性脳機能障害に与える影響が異なることから、それぞれの性格が表現しているうつ症状が異なることが示唆された。

タイプD性格の患者がうつ症状を持つことにより、心臓外科術後1週間のせん妄・昏睡期間に影響を及ぼすことが分かったが、同タイプの人は性格上、うつ症状を表現できていない危険性が懸念される。そのため、うつ症状が過小評価される可能性があり、臨床上においては「発見されないうつ症状」が潜んでいることに留意する必要がある。

研究グループは、「臨床診療や看護においては、あらかじめ、調査票を用いてタイプD性格患者を抽出することで、該当する患者に対して、より注意して臨床診療および看護を行い、せん妄を予防する対策を講じることができると期待される。また、集中治療を必要とする状況においても、性格などの人格的要因を軽視せず、表現を苦手とする人のうつ症状に寄り添うことの重要性を示している」と、述べている。

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