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切除可能な食道がんに対し「胸腔鏡下手術」が有効な選択肢となる可能性-国がんほか

読了時間:約 3分17秒
2025年11月18日 AM09:20

食道がんに対する開胸手術と胸腔鏡下手術の長期成績を直接比較した研究はなかった

国立がん研究センターは10月30日、食道がんの手術において、これまでの標準治療である開胸手術と、より低侵襲な胸腔鏡下手術の生存期間を比較するランダム化比較試験を多施設と共同で実施し、その結果を発表した。この研究は、同センター中央病院が中央支援機構(データセンター/運営事務局)を担い支援する日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)によるもの。研究成果は、「The Lancet Gastroenterology and Hepatology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本における食道がんの主な組織型は、食道の粘膜の最も内側に発生する扁平上皮がんが90%弱を占めており、逆流性食道炎に関連して発生し欧米で多くみられる腺がんは7%程度にとどまる。

食道がんに対する標準治療は長らく開胸して行う食道切除術であったが、患者への侵襲や負担が大きいため、それを軽減することを目的として、開胸を行わないより低侵襲な胸腔鏡下手術が開発され、世界的にも急速に普及してきた。しかし、これまでのところ開胸手術と胸腔鏡下手術の長期成績を直接比較した研究はなかった。

JCOGでは、2つの治療法の長期成績を検証するために、2015年から同試験(JCOG1409)を開始した。なお、登録期間は当初の計画より1年延長され、2022年6月に予定患者登録数の300人に到達し、登録終了となった。同試験の主たる解析は2025年6月に実施予定であったが、2023年6月に2回目の中間解析を実施したところ、胸腔鏡下食道切除術群の全生存期間が開胸食道切除術群に対して劣らないことが統計学的に示された[ハザード比(HR)=0.64(98.8%信頼区間0.34-1.21)、p=0.000726]。この結果を受けて試験を予定よりも早期に中止し、結果を公表するに至った。

3年後の生存患者割合、開胸食道切除術群70.9%に対して胸腔鏡下食道切除術群82.0%

研究では、切除可能な食道がん患者を対象に、標準治療である開胸食道切除術に対する胸腔鏡下食道切除の非劣性を同試験で検証した。2つの治療法をより正確に評価するため、患者は標準治療:A群(開胸食道切除群)、試験治療:B群(胸腔鏡下食道切除群)のいずれかにランダム(無作為)に振り分けられた。

主要評価項目である生存期間の評価では、3年後に生存している患者の割合が開胸食道切除術群:70.9%(95%信頼区間61.6%-78.4%)に対して、胸腔鏡下食道切除術群:82.0%(95%信頼区間73.8%-87.8%)で、胸腔鏡下食道切除術群で良好な結果であった。また、開胸食道切除術群の3年時点の無再発生存割合:61.9%に対して、胸腔鏡下食道切除術群:72.9%[HR: 0.68(95%信頼区間0.46-1.01)]と、胸腔鏡下食道切除術群で良好な傾向であった。

胸腔鏡下食道切除群の方が、術後の呼吸機能低下を抑えられることも判明

手術後の合併症については、Grade 2以上の術後肺炎および縫合不全は開胸食道切除術群でそれぞれ29人(19.6%)、15人(10.1%)、胸腔鏡下食道切除術群ではそれぞれ20人(13.3%)、24人(16.0%)と、大きな違いはなかった。一方で、術後3か月時点で呼吸機能低下を来した患者の割合は開胸食道切除術群:12.5%、胸腔鏡下食道切除術群:9.7%で、胸腔鏡下食道切除群の方が術後の呼吸機能低下が抑えられることが示された(p=0.0008)。

同試験の結果、開胸手術に比べて胸腔鏡下手術の治療成績が劣らないことが示され、より低侵襲である胸腔鏡下手術が切除可能食道がんに対する有効な治療選択肢となり得ることが明らかになった。

それぞれのメリット・デメリットを知った上で、適切な治療法を選択することが重要

今回の試験結果により、切除可能な進行食道がん患者に対する手術として、開胸手術に加えて胸腔鏡下手術が標準治療の一つになることが示された。JCOG食道がんグループでは、食道がん手術の患者に与える負担のさらなる軽減を目的とし、「臨床病期I-IVA(T4を除く)胸部上中部食道扁平上皮がんに対する予防的鎖骨上リンパ節郭清省略に関するランダム化比較試験」(JCOG2013)を行っている。ただし、食道がんの手術では術前の呼吸機能や過去の手術歴などさまざまな要因を考慮する必要があり、治療法の利点と欠点について、個々の患者がよく説明を受けた上で決めることも重要である。また、同試験では「日本内視鏡外科学会の技術認定取得医または同等の技量を有する術者が執刀する」あるいは「同等の技量を有する指導者の下で手術を行う」ことが定められていた。そのため、施設や手術担当医に応じて適切な治療法を選択することも重要だ。

「2018年からは、ロボット支援下手術が保険適用されるようになり、多くの施設で導入が進んでいる。ロボット支援下食道手術は、より繊細な手術が可能と期待される一方で、導入からの期間が浅く、その有効性が十分には示されていない。そのため、治療方針を決定する際には患者の状況や、治療を受ける施設の状況などを考慮した上で、治療方針を選択していくことが望ましいと考えられる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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