胎児期から長期追跡の「エコチル調査」データを用いて解析
国立成育医療研究センターは10月29日、妊娠中の特定の金属元素へのばく露量の増加は4歳までの子どもの肥満と関連しないことが明らかになったと発表した。この研究は、同センターエコチル調査研究部の羊利敏氏、佐藤未織氏、齋藤麻耶子氏、宮地裕美子氏、原間大輔氏、坂本慧氏、西里美菜保氏、熊坂夏彦氏、目澤秀俊氏、山本貴和子氏、大矢幸弘氏、深見真紀氏の研究グループとJECSグループとの共同研究によるもの。研究成果は、「Environmental Research」に掲載されている。

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子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質やその他環境因子へのばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査である。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしている。
エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。
これまでも母親の妊娠中の血中金属元素濃度と子どもの成長との関連は研究されていたが、その結果は一貫していなかった。特に、金属ばく露は小児期における肥満発症リスクやzBMIと関連している可能性が示唆されてきた。今回研究グループは、エコチル調査で得られたデータを用いて、妊婦の血中金属元素濃度と子どもの肥満との関連について調べた。
4種の金属元素ばく露を分析、zBMI低下傾向も小児肥満への影響は「なし」と結論
今回の研究では、母子9万3,782組を解析対象とした。解析は3つに分けられ、まず水銀、鉛、カドミウム、マンガンの4つの金属ばく露それぞれと4歳までの小児肥満との関連を調べた。次に、肥満を分類して、各金属と肥満の4グループとの関連を考察した。最後に、4つの金属が同時に変化した際の、4歳時点での肥満リスクの変化を観察した。
その結果、鉛、カドミウム、水銀のばく露は、4歳までのzBMIが低くなる傾向を示した。子どもの4歳までの肥満は、肥満なし群(74.7%)、早期肥満群(8.4%)、3~4歳肥満群(11.8%)、持続性肥満群(5.2%)の4群に分類した。水銀ばく露量の増加は、3~4歳時点での肥満または持続性肥満と関連が低いことが明らかになった。妊娠中の血中鉛、カドミウム、水銀、マンガン濃度が同時に上昇すると、4歳時点の肥満のリスクが減少することがわかった。統計上母親の妊娠中の血中金属元素濃度が上昇すると小児肥満のリスクが減少することが認められたが、その関連は極めて低いため、母親の妊娠中の血中金属元素濃度が小児肥満に大きな影響を与えることはないと結論付けた。
食生活などの未調整要因や情報バイアスを指摘、金属ばく露の影響が出やすい時期の特定が課題
研究の限界としては、子どもの食事や魚介類の摂取などいくつかの交絡因子は調整されていないこと、教育水準が低い・経済状態が良くない参加者は追跡調査から外れる可能性があること、子どもの身長、体重、測定日について親からの申告であるため、情報バイアスがあること、BMIは低年齢児の肥満を反映するのに適した指標ではないこと、などが挙げられた。
「今後の研究では、金属ばく露の影響が出やすい時期と、子どもの金属ばく露と成長・発達との関連に焦点を当てるべきである。引き続き、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因が明らかとなることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース


