「怠け者の病気」など誤解が多い糖尿病
筑波大学は10月20日、子どもに対する糖尿病教育において、教材として漫画を用いた場合、講義と同じように糖尿病に対する知識や予防のための運動量を増やせることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大システム情報系の鈴木健嗣教授、鈴木康裕特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical Pediatric Endocrinology」に掲載されている。

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1型糖尿病(T1DM)は子どもに多い病気で、体の中でインスリンを作る細胞が壊れるために生じる。近年、世界的にT1DMの増加が報告されており、さらに2型糖尿病(T2DM)も子どもに増えていることが問題になっている。糖尿病において、小児期での適切な知識や生活習慣の獲得が大切だ。一方で、「糖尿病は怠け者の病気」「インスリンを使うと動かない方が良い」などの誤解も多く、わかりやすく正しい知識を提供する工夫が必要である。また、糖尿病を持つ子どもが健やかに生活するためには、自分や家族が正しい知識を持つだけでなく、学校や周囲からの理解も大切である。しかし、T1DMとT2DMの違いや、インスリン注射や食事管理について、必ずしも正しく知られていないのが現状である。
糖尿病を楽しく学べる漫画教材を作成
そこで研究グループは、漫画教材を使って糖尿病を楽しく学べる方法として「ゲーミフィケーション」という考え方を取り入れ、学びを遊びやゲームのように感じられるように工夫された教材を作成した。これまでに、糖尿病の教育用の漫画を製作しT1DMの子どもたちに配布したところ、漫画を読むことで運動習慣が高まる可能性が示されている。
茨城県在住の子ども30人対象、漫画による知識・運動習慣の変化を調査
今回の研究では、小学生および中学生に漫画を配って知識や運動習慣(身体活動量)の変化を調べるとともに、講義による学びとの違いや学ぶときの心理的な影響も検討した。同研究では、茨城県在住者を対象とした地域の広報誌によって参加者を募り、8~15歳であること、医師から運動の制限の指示を受けていないこと、歩行や生活が自立していることの条件に該当する応募者30人を対象とした。糖尿病教育の方法を比較するため参加した子どもは、無作為に、漫画を読むグループと講義を受けるグループに分けられた。両グループとも、最初に糖尿病に関するテスト(45点満点)を行い、また2週間に渡り加速度計を装着し活動量を測定した。その後、漫画または講義による教育(それぞれ20分間程度)を受け、6か月後に再びテストと活動量の測定を行った。漫画は、配布直後に保護者同席のうえ、それぞれ個室で読んでもらい、講義は5~8人ほどの集団で保護者同席の元で受講してもらった。また、いずれのグループでも、終了後に参加者からの質問時間(5分程度)が設けられた。
漫画教育、講義と同程度に知識・運動習慣を向上
その結果、糖尿病の知識テストでは、どちらのグループも点数が大きく伸び、漫画を読んだグループは平均19点から11点(24%)、講義を受けたグループは平均17点から10点(22%)上昇した。従って、どちらの方法も、糖尿病に対する知識や理解を深める効果があると考えられる。また、身体活動の結果も良好で、漫画を読んだグループでは1日の歩数が平均6,190歩から約1,400歩増え、講義のグループでも歩数が平均6,640歩から同じくらい増加した。運動の強さを考慮した時間も両方のグループで延びており、教育が体を動かすきっかけになった可能性がある。
漫画を楽しく読めた子ほど、歩数など身体活動量増の傾向
さらに、心理的な面では、講義グループより漫画グループの方が、教育を受けた直後に「満足感」を感じやすいことがわかった。また、漫画を楽しく読めた子どもほど、歩数などの身体活動量が増える傾向にあり、逆に「怖い」「悲しい」と感じた場合は知識や運動の伸びが小さくなる傾向があった。一方、講義のグループでは、このような気持ちの変化と行動変容との関係は見られなかった。
以上より、漫画による教育は、講義と同程度に知識や運動習慣を向上させることがわかった。特に漫画を用いた場合は「楽しさ」「満足度」「怖さ」といった心理的印象が、その後の知識習得や運動習慣と関連しており、この特徴は講義による教育では認められなかったことから、効果の大きさは同等であっても、教育効果の発揮メカニズムは異なる可能性があり、今後の教材開発に有用な知見と考えられる。
生活習慣病の予防やメンタルヘルス教育などの分野への応用も期待
今後は、より大規模な研究を行い、学校や地域社会における健康教育プログラムとして活用できる仕組みづくりを目指す。漫画を用いた教育は、子どもが楽しみながら知識を身につけ、自然に体を動かす行動につながる点が強みである。糖尿病にとどまらず、肥満や生活習慣病の予防、さらにはメンタルヘルス教育などさまざまな分野への応用も期待される、と研究グループは述べている。
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・筑波大学 プレスリリース


