突然発症し、重篤な視力低下を引き起こす希少疾患
東北大学は10月20日、網膜中心動脈閉塞症に対するカルパイン阻害薬SJP-0008の安全性と有効性を医師主導治験で確認したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科眼科学分野の中澤徹教授、津田聡准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Ophthalmology Science」に掲載されている。

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網膜は視覚に関わる重要な神経細胞で構成されている。「網膜中心動脈閉塞症(Central Retinal Artery Occlusion;CRAO)」は、網膜を栄養する主要な血管である網膜中心動脈が血栓によって閉塞することで発症する。血流が途絶えると、細胞内に存在するタンパク質分解酵素であるカルパインが過剰に活性化し、神経細胞の細胞死を誘導する。血流障害が継続し、多数の神経細胞で細胞死が生じると、回復不能で急激な視力低下・視野障害を生じる。
これまでにCRAOの有効な治療法は確立されておらず、新しい治療法の開発が望まれている。しかし、年間10万人に数人程度しか発症しない希少疾患である上に、突然発症し、治療可能な期間が短期間であるため、治療法の開発は進んでいなかった。
カルパイン阻害薬「SJP-0008」の有効性・安全性を評価する医師主導の第2相試験
研究グループは、基礎研究によってカルパイン阻害作用を持つ「SJP-0008」が網膜の神経細胞の細胞死を抑制することを明らかにしてきた。既に健常成人では安全性が確認されていることから、今回CRAOを対象としてSJP-0008の安全性と有効性を評価するために医師主導治験(第2相試験)を実施した。
対象は、2019年12月より東北大学病院にて、CRAOを発症から3~48時間の患者。SJP-0008を1か月間内服し、3か月までの安全性および有効性を評価した。治験におけるSJP-0008の有効性評価では、CRAOの疾病登録研究のデータを対照群として比較検討した。
SJP-0008内服により視力が改善、安全性にも問題なし
治験では、SJP-0008内服による安全上の大きな問題はなく、視力はEarly Treatment Diabetic Retinopathy Study(ETDRS)法による評価で5段階以上の改善が認められた。一方、SJP-0008を内服していない対照群のデータでは、視力の改善は2段階に留まった。このことから、SJP-0008の内服により視力改善が得られることが示唆された(p<0.05)。
CRAOの有望な治療薬候補、第3相試験が進行中
「本治験における有望な結果と、CRAOが有効な治療法がない希少疾患であることから、SJP-0008は厚生労働大臣から希少疾病用医薬品の指定を受けている。既に、CRAOに対する同剤の有効性と安全性を検証する第3相試験が実施されている」と、研究グループは述べている。
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