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賃貸・集合住宅の居住者、65歳以上は循環器疾患での死亡リスク「高」-科学大ほか

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2025年10月22日 AM09:30

住宅が循環器疾患の「死亡」に及ぼす影響、検証はわずかだった

東京科学大学は10月9日、健康長寿を目的とした大規模な疫学調査であるJapan Gerontological Evaluation Study(JAGES)のデータと厚生労働省の死因データを突合した分析に基づき、持家・集合住宅と比較した結果、賃貸・集合住宅の居住者は循環器疾患による死亡リスクが高いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大環境・社会理工学院建築学系の海塩渉助教、大学院医歯学総合研究科歯科公衆衛生学分野の木内桜助教、未来社会創成研究院ウェルビーイング創成センターの相田潤教授、浜松医科大学の尾島俊之教授、日本福祉大学の斉藤雅茂教授、千葉大学の花里真道准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMJ Public Health」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

近年、住環境による健康影響に注目が集まっており、世界保健機関(WHO)が2018年に発行した住宅と健康ガイドラインでは、冬の室温を18℃以上に保つことや、住宅の断熱化を施すことにより循環器系(脳・心臓)の健康を改善できると示している。しかし、住宅と循環器系の健康についての先行研究は、血圧などの短期的に変動する指標を用いたものが多く、住宅が循環器疾患の発症や死亡に及ぼす影響までを検証した事例はわずかであった。

そこで今回、日本の大規模なコホート研究JAGESのデータに基づき、住宅の基本属性である建物タイプ(戸建/集合)と所有形態(持家/賃貸)の組み合わせが循環器疾患による死亡に与える影響を明らかにすることを目的に研究を行った。

高齢者3.8万人を6年間追跡、賃貸・集合住宅の累積死亡率が最も高い

今回の研究は、65歳以上の高齢者3万8,731人を対象に行われた2012年1月1日~2017年12月31日までの6年間の追跡調査のデータを用いた。住宅種別(持家・戸建住宅/持家・集合住宅/賃貸・戸建住宅/賃貸・集合住宅)に関するアンケート、市町村の保有する死亡日データ、厚生労働省の保有する死因データを結合し、循環器疾患に起因する累積死亡率を住宅種別に比較した。

その結果、賃貸・集合住宅、持家・戸建住宅、持家・集合住宅の順に、循環器疾患による累積死亡率が高くなり、カプラン・マイヤー曲線の差を検定した結果、統計学的な有意差が認められた(賃貸・戸建はサンプル数が少ないため対象外)。

所得や生活習慣を調整しても、男性では死亡リスクが132%増

研究グループは次に、競合リスクモデルを用いて、年齢・性別などの個人属性や所得・教育歴などの社会経済的要因、食事・運動などの生活習慣を調整した上で、部分分布ハザード比を算出した。

分析の結果、持家・集合住宅と比較して賃貸・集合住宅のハザード比が全体では1.78、男性では2.32で有意となった(女性は1.29で有意差なし)。この結果は、賃貸・集合住宅における6年間の循環器疾患の死亡リスクは持家・集合住宅と比べて全体では78%高く、男性では132%高いと解釈される。

オーナーの投資意欲と温熱環境、2つの要因が死亡リスクに関係の可能性

研究グループは、住宅種別による循環器疾患死亡の違いは、「賃貸と持家の住宅性能の差」や「戸建と集合の構造的な差」によって生じた可能性を指摘している。

賃貸・集合住宅のリスクが持家・集合住宅より高かった理由としては、賃貸住宅のオーナーは自分自身がその住宅に居住しないため、住宅性能向上のための投資をせずに持家と比べて住宅性能が低くなる傾向にある「スプリット・インセンティブ」という問題が考えられる。

また、上下左右を屋外に囲まれる戸建住宅は、隣接住戸に囲まれる集合住宅と比べて屋外と接する壁や屋根等の面積が大きく、屋外環境の影響を受けやすくなる。その結果、室内環境、中でも循環器疾患のリスク要因である温熱環境の質が低下しやすく、適切に管理されている集合住宅に比べ死亡リスクが高くなったと考えられるとした。

英国事例を参考に、住宅性能向上を目指す取り組みが必要

今回の研究で、住宅の種別が循環器疾患による死亡に影響を及ぼすことが明らかとなり、特に賃貸住宅で死亡リスクが高いことがわかった。これらの結果は、スプリット・インセンティブの問題を解決し、賃貸住宅オーナーによる住宅性能への投資が重要であることを示唆している。

海外の事例として、イギリスでは住宅健康安全評価システム(Housing Health and Safety Rating System, HHSRS)が活用されており、住宅が健康・安全面で欠陥ありと判定されると、賃貸住宅を含め、住宅オーナーに対して住宅改修や解体などの命令が出される仕組みがある。このシステムは英国の住宅法に導入され、法制化にまで至っている。このような海外の事例をベンチマークにしつつ、賃貸住宅の良質なストック形成に向けた取り組みを進めることが重要である。日本でも、2024年4月から新しい建築物の省エネ性能表示制度が始まり、賃貸住宅に対しても断熱性能を含む省エネ性能ラベルの表示が努力義務化された。このような「見える化」も賃貸住宅オーナーによる住宅性能に対する投資意欲の向上のために重要と考えられる。

「今回の研究では、住宅の基本属性として建物タイプ(戸建/集合)と所有形態(持家/賃貸)の組み合わせによる循環器疾患死亡への影響を検証した。今後、住宅の環境測定を大規模に実施し、健康データとの突合を行うことで、疾病を予防、健康長寿を実現する客観的な住宅環境基準の確立につながることが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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