高齢者が抱える痛みとIADL低下との関係、日本での研究は十分ではない
大阪公立大学は10月9日、身体的な痛みが高齢者の自立した生活維持力を低下させると示唆する研究結果を発表した。この研究は、同大大学院生活科学研究科の水谷有紀子氏(博士前期課程2年)、鵜川重和教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Geriatrics」にオンライン掲載されている。
起床や就寝、食事、入浴など日常生活を送る上で最低限必要な動作は、基本的日常生活動作(ADL)と呼ばれ、自立した生活を送ることができるかを判断する際の重要な指標として利用されている。一方、買い物や電話、金銭管理、調理、洗濯などは手段的日常生活動作(IADL)と呼ばれ、計画性や判断力、記憶力などの認知機能が必要で、日常生活を送る上で欠かせない比較的複雑な動作を指す。
2022(令和4)年国民生活基礎調査によると、高齢者が最もよく感じる身体の不調は「腰や足の痛み」である。買い物や料理、お金の管理などのIADLは、地域で自立して生活するために不可欠である。IADLの低下は生活の自立を困難にし、介護を必要とする状況につながることがあり、また、認知症やフレイル(心身の弱り)、うつ病などの健康問題につながることも知られている。しかし、多くの高齢者が抱える痛みとIADL低下との関係について、日本における研究は十分ではない。海外でも研究は行われているが、対象となる国や地域が限られており、全体像を把握するには不十分である。
世界中の研究論文から全体傾向を整理するシステマティックレビューで分析
今回の研究では、世界中の研究論文を収集し、統合して全体の傾向を整理するシステマティックレビューにより分析した。はじめに抽出した400本の論文から条件を満たした13か国29本について検討した。
「痛みがあるとIADL低下につながりやすい」23本の論文で
その結果、23本の論文で、痛みがあるとIADLの低下につながりやすいことが報告されていた。また、先行研究において、痛みがもの忘れや気分の落ち込み、外出や活動の制限を引き起こし、その結果として自立した生活を維持する力の低下に結びつくことが指摘されている。これらの知見により、高齢者の痛みの予防や軽減が、自立した生活を支えるうえで重要であることが示唆される。
高齢者の自立した生活、薬やリハビリなどによる痛みの管理が重要
同研究において、痛みがIADLの低下と関係していることが示唆されたことから、高齢者が自立して生活を続けるためには、薬やリハビリなどによる痛みの管理が重要になると考えられる。今後は、痛む場所や痛みの強さ、頻度などに着目した研究を進めることで、高齢者が安心して生活できる社会づくりに役立つと期待される、と研究グループは述べている。
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・大阪公立大学 プレスリリース


