日本人女性の生涯にわたる生殖機能評価は行われていなかった
国立成育医療研究センターは10月6日、出生体重と思春期・成人期の生殖アウトカム(初経・閉経年齢、生理周期の乱れなど)との関連を調べる研究を行い、低出生体重で生まれた女性は生殖可能年齢が短くなる傾向にあることが認められたと発表した。この研究は、同センター女性の健康総合センター女性の健康推進研究室および社会医学研究部の森崎菜穂氏らの研究グループと、国立がん研究センターなどとの共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Epidemiology」に掲載されている。

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これまでの研究で、出生体重が少ない場合、成人期において高血圧や糖尿病、心疾患などのリスクが高いことが報告されている。女性の場合、低出生体重は生殖機能へ影響を及ぼすリスクが高いことも報告されているが、関連がないとする報告もあり、一貫性がなかった。
この要因の一つとして、研究対象が若年層、妊娠を希望している女性、もしくは現在妊娠中の女性であることが多く、女性の生涯にわたる生殖アウトカムを包括的に評価する研究が行われていないことが考えられる。また、報告は主に欧米、北欧諸国からで、日本人女性の研究は行われていなかった。こうした背景から、出生体重と生殖アウトカムに関連があるかどうかを包括的に評価し、調べる研究が求められていた。
40~68歳の女性4万7,000人の出生体重と生殖アウトカムの関連を調査
今回の研究では、2011~2016年に次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)対象地域(秋田県、岩手県、茨城県、長野県、高知県、愛媛県、長崎県)に住み、研究に同意した40~68歳の約4万7,000人の女性を対象に、出生体重と思春期・成人期の生殖アウトカム(初経・閉経年齢、生理周期の乱れなど)との関連を調べた。地域、出生年、教育歴、受動喫煙年数、身長、年上の兄弟の有無、喫煙習慣、20歳時の体格、婚姻歴は統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ省いた。初経・閉経年齢については基準グループとの平均値の差、月経不順については基準グループとの割合の差を算出した。
出生体重2.5kg未満の低出生体重児、初経年齢が遅く閉経年齢が早い
その結果、出生体重が3kg台(正出生体重児)の女性と比べて、低出生体重児(出生体重2.5kg未満)の女性は初経年齢が約2か月遅く、閉経年齢が約3~7か月早い関連がみられた。これらを総合すると、生殖可能期間が約5~8か月短縮される傾向が認められた。
低出生体重児は月経不順リスクが最大1.19倍
また、出生体重が3kg台(正出生体重児)の女性と比べて、1,500~2,499g(低出生体重児)および、1500g未満(極低出生体重児)の女性で月経不順の有無(過去に生理周期が乱れたことがあること)などとの関連も確認された。正出生体重児の女性を基準とした場合、極低出生体重児の月経不順リスクは1.19倍、低出生体重児のリスクは1.11倍であった。
これらの関連は、コホートに参加している女性のうち、年長の世代(1948~1959年生まれ)において顕著で、年少の世代(1960~1977年生まれ)ではその傾向が減少していることが観察された。そのため、より若い世代の追跡によるさらなる研究が望まれる。
出生前要因が女性のライフコースに影響の可能性、予防医学に期待
今回の成果は、出生体重と生殖アウトカムの関連を、周閉経期女性を対象に包括的に評価した初めての研究成果であり、女性のライフコース全体にわたる生殖機能の形成において、出生前の要因が重要な役割を果たす可能性を示唆している。
ただし、今回の研究の対象者は1977年までに出生した女性であるため、近年の出生者についても同様の傾向が見られるかは明らかではない。また、妊娠から出産までの期間が把握できていない点や、出生体重が自己申告に基づいている点も、研究の限界点として挙げられている。
「日本では10人に1人が低出生体重児、100人に1人が極低出生体重児で生まれる。今後、低出生体重児が増えないための取り組みや、低出生体重児として生まれた方の成人後のプレコンセプションケアのために、本研究の知見が正しく周知され、予防医学の精度の向上に役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース


