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Caspr1抗体陽性自己免疫性ノドパチー、臨床像が明らかに-九大ほか

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2025年10月16日 AM09:10

CIDPから分離された新疾患「自己免疫性ノドパチー」、診断上の課題多く

九州大学は10月7日、コンタクチン関連タンパク質1(contactin-associated protein 1、Caspr1)抗体陽性自己免疫性ノドパチーの特徴を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院神経内科学分野の磯部紀子教授、同大病院脳神経内科の緒方英紀助教、医学系学府博士課程の田代匠氏らの研究グループと、全国の複数の医療機関との共同研究によるもの。研究成果は、「Neurology」に掲載されている。


画像はリリースより
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近年の研究により、従来、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy:CIDP)と診断されていた患者の一部で、末梢神経のランビエ傍絞輪部に存在するタンパク質に対する自己抗体が次々に発見されるようになり、それらの自己抗体が陽性の一群は自己免疫性ノドパチーという新たな疾患名へ分類されることとなった。同疾患は手足の筋力低下やしびれ感をきたす非常にまれな疾患であり、症状の特徴は十分にわかっていない。また、自己免疫性ノドパチーの患者では、CIDPにおいて有効な免疫グロブリン療法への治療効果が乏しいことが知られており、診断と治療選択の両面から自己抗体の測定は有用であると考えられる。しかし、疾患は十分に認知されておらず、抗体測定が一部の研究機関でしか行われていないこともあり、未診断例も存在することが予想されている。

自己免疫性ノドパチー患者で検出されるCaspr1抗体、臨床像は不明点が多かった

Caspr1抗体は自己免疫性ノドパチーの患者で検出される自己抗体の一つ。しかし、Caspr1抗体陽性自己免疫性ノドパチーは世界でもこれまで10~20例程度の報告しかなく、臨床像は十分に明らかになっていなかった。また、現状では、抗体測定は一部の研究機関でしか行われていないため、疾患も十分に認知されていない。

Caspr1抗体測定系を確立、世界最大規模の陽性例19例を同定

研究グループは、ELISA法や免疫組織化学染色法を用いたCaspr1抗体測定系を確立した。今回の研究では、全国のCIDP患者を対象に血液中のCaspr1抗体を測定し、世界最大規模となる19例の陽性例を同定した。

高齢者や男性に好発、振戦・感覚性失調など臨床的特徴も明らかに

臨床情報を解析した結果、発症年齢は64歳(中央値)と高齢で、男性が多いことがわかった(14例)。また、症状としては、手足の筋力低下やしびれ感の他に歩行障害やふるえの一種である振戦、ふらつきの一種である感覚性失調を高頻度に呈することがわかった。脳脊髄液検査ではタンパク濃度が非常に高く(249mg/dL、中央値)、神経伝導検査では明確な伝導遅延が見られた。

免疫グロブリン療法のみで症状改善は19例中1例のみ

Caspr1抗体のIgGサブクラス解析を行った結果、主にIgG4が上昇しており、CIDPの第一選択治療のうち免疫グロブリン療法で症状が改善する患者の割合が低いことがわかった。19例全例で免疫治療が施行されたが、免疫グロブリン療法のみで症状の改善を維持できた症例は1例のみで、残りの18例では第一選択治療の中で治療法の変更や複数の治療法の併用が行われていた。免疫治療によって症状が改善するとCaspr1抗体も低下し、患者によっては陰性化することを明らかにした。

今後、発症メカニズム解明や最適な治療法開発に期待

今回の研究によって、Caspr1抗体陽性自己免疫性ノドパチーの患者は、日本でも決してまれではないことがわかった。臨床像が明らかになったことで、同疾患が疑われる場合には積極的な抗体測定が推奨される。また、同疾患が世に広く知られることで、患者をより早期に診断し、早期に適切な治療を行うことができるようになる。今後は、発症メカニズムの解明や最適な治療法の開発が期待される、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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