発症機序が不明なブレインフォグ、治療法・診断法は確立されていない
横浜市立大学は10月1日、神経細胞同士の情報伝達のやりとりの要であるグルタミン酸AMPA受容体が、新型コロナウイルス感染症罹患後症状(Long COVID)の認知機能障害、いわゆる「ブレインフォグ(Brain fog)」に関わることを初めて明らかにと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科(生理学)の高橋琢哉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Brain Communications」に掲載されている。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者の中には、倦怠感や呼吸困難、嗅覚障害などの罹患後症状(コロナ後遺症、Long COVID)を呈する人がおり、世界的に大きな問題となっている。特に記憶力や判断力が下がるなどの認知機能の低下は頭に「もや」がかかったように感じられることからブレインフォグと呼ばれ、就学・就労などの社会生活や日常生活の大きな妨げとなっている。この症状は、COVID-19罹患後の脳機能異常に起因すると考えられるが、その発症メカニズムは不明であり、治療法・診断法は確立されていない。
「誰ひとり取り残さない安心・安全なwith/postコロナ社会」の創出において、ワクチン開発や治療法開発に加えて、社会的損失の大きいLong COVIDの克服は重要である。そこで研究グループは今回、これまで行ってきた、うつ病、双極症、統合失調症、認知症などの精神・神経疾患を対象とした研究の結果を踏まえ、ブレインフォグの患者の脳では、記憶や学習に深く関わるAMPA受容体量の発現のバランスが破綻(変化)しているのではないかと考え、クラウドファンディングの寄付によってこの研究を実施した。
Long COVID患者30人を対象に、脳内AMPA受容体と認知機能の変化を検証
研究では、COVID-19罹患後に認知機能の低下で就学・就業に支障が生じている患者30人を対象に、同研究グループが開発したヒトの脳内でAMPA受容体を観察できる新しい技術を用いて、脳内AMPA受容体の変化(どこで、どれくらい多くなっているのか/少なくなっているのか)を調べた。また、認知機能の低下は、認知機能評価の一つである「RBANS日本語版」で評価した。
患者脳内でAMPA受容体量増加、認知機能・炎症性マーカーとの関連も確認
この30人のPET画像を、同研究グループが以前に実施した健常者のPET画像と比較したところ、COVID-19罹患後に認知機能の低下をきたしている患者の脳内で、AMPA受容体の量が、同年齢帯の健常者よりも脳の広い範囲で増加していることがわかった。
さらに、AMPA受容体の量が多いほど、RBANSの中の「絵呼称(Picture Naming:語彙力や呼称能力を評価)」「図形再生(Figure Recall:視空間記憶の保持能力)」の2項目のスコアが低いことがわかった。加えて、感染などによって濃度が変化する炎症性マーカーの一部で、その濃度が高いほどAMPA受容体の量が増加したり、逆に減少したりする関係性を示すことがわかった。
AMPA受容体の働きを抑える薬剤がブレインフォグ治療に有効な可能性
今回の研究成果は、Long COVIDの認知機能障害であるブレインフォグの、脳の変化に基づいた診断方法の開発につながる可能性がある。さらに「AMPA受容体の働きを抑える薬剤で、抗てんかん薬として承認されているペランパネルが、ブレインフォグ治療に使える可能性を示唆している」と、研究グループは述べている。
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