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全身性エリテマトーデス、病態形成にヒストン修飾異常が関与-東大ほか

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2025年10月08日 AM09:00

SLEにおける翻訳後修飾の異常は未解明だった

東京大学は9月29日、自己免疫疾患における新たなタンパク質翻訳後修飾異常を発見したと発表した。この研究は、同大大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻の山口公輔助教、胡右昀氏、川尻海斗氏、板倉正典助教(研究当時)、内田浩二特任教授、名古屋大学大学院生命農学研究科 応用生命科学専攻の中島史恵助教、柴田貴広教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Biological Chemistry」に掲載されている。


画像はリリースより
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全身性エリテマトーデス(SLE)は、抗DNA抗体の産生や抗体産生細胞の増加を特徴とする自己免疫疾患の一種。SLEの発症には、遺伝あるいは環境要因が関わるとされている。一方で近年、タンパク質の翻訳後修飾の異常が自己免疫疾患に寄与する例が複数報告されている。しかし、SLEにおける翻訳後修飾異常の網羅的解析は行われていなかった。

そこで研究グループは、SLEにおける翻訳後修飾の異常を見出すこと、その異常が病態形成に及ぼす影響を評価することを目的として実験を進めた。

SLEモデルマウスの脾臓B細胞ではH3K4me1が減少

今回の研究では、タンパク質修飾構造の網羅的解析法である「アダクトーム解析」を用いることで、SLEモデルマウスにおける翻訳後修飾の異常を探索した。各臓器を解析した結果、SLEモデルマウスの脾臓タンパク質でリジンモノメチル化が減少していることを見出した。この結果は、安定同位体を用いた絶対定量およびモノメチルリジン特異的抗体を用いた免疫化学的解析からも裏付けられた。

次に、リジンモノメチル化の標的となるタンパク質の同定を試みた。磁気ビーズによる細胞分画と特異的抗体を用いた免疫化学的解析を組み合わせた検討の結果、SLEモデルマウスの脾臓B細胞において、ヒストンH3のK4におけるモノメチル化(H3K4me1)が減少していることが明らかになった。

脱メチル化酵素の阻害により抗体産生細胞への分化抑制に成功

ヒストンのメチル化は、残基特異的なメチル化酵素・脱メチル化酵素によって厳密に制御されている。これらのメチル化関連酵素の中で、SLEモデルマウスにおける発現増加が認められた「LSD1」という脱メチル化酵素に着目した。

LSD1阻害剤の添加によって、SLEモデルマウスから単離した脾細胞中の抗体産生細胞の割合が低下した。また、TLRアゴニストおよびサイトカインにより分化誘導したB細胞に対しても、LSD1阻害剤は分化抑制作用を示した。これらの結果から、脱メチル化酵素の阻害によりSLEモデルマウスの脾臓B細胞におけるH3K4me1を回復させると、SLEの特徴でもある抗体産生細胞への過剰な分化を抑制できる可能性が示された。

H3K4me1減少はPAX5発現低下を介して抗体産生細胞の過剰な分化を誘導

一般的に、H3K4me1は遺伝子発現の活性化マーカーとして知られている。また、B細胞においては、H3K4me1はPAX5と呼ばれる転写因子の発現に寄与すること、そしてPAX5はB細胞の分化を抑制することで正常な成熟に寄与することがわかっている。このことから、SLEモデルマウスの脾臓B細胞におけるH3K4me1の減少は、PAX5の発現低下を介して抗体産生細胞の過剰な分化を誘導することが予想された。

実際に、SLEモデルマウスの脾臓B細胞においてはH3K4me1とPAX5エンハンサー領域の相互作用が消失し、PAX5の発現量も低下していることが確認された。

SLEの新たな病態形成メカニズム、治療法開発につながる科学的基盤

今回の研究では、SLEと関連した翻訳後修飾の異常の一つとしてリジンモノメチル化の減少を見出した。また、SLEモデルマウスの脾臓B細胞においてH3K4me1が減少していること、そしてこの異常がPAX5の発現低下を介してB細胞の過剰な分化に寄与する可能性を明らかにした。

「これらの発見は、タンパク質修飾の異常という新たな視点からSLEの病態形成メカニズムを見出した点に価値がある。本研究により得られた知見は、SLEをはじめとする自己免疫疾患の治療に向けた科学的基盤となることが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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