食事や着替えなどに重要な手指機能、要介護リスクとの関連は未検証
筑波大学は9月29日、足腰の機能に加え、手指を巧みに動かす機能も健康寿命のカギとなることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大体育系の大藏倫博教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Geriatric Medicine and Research」に掲載されている。

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高齢期には、歩行や立ち上がりなどの下肢機能が低下し、これが要介護化の一因となることが知られている。研究グループもこれまで、下肢機能と要介護化との関連を報告してきた。一方で、このような大きな動作を伴わない、手や指を使った細かな動作(手指機能)も加齢とともに低下することがわかっている。手指機能は、指や手先を使って物をつかむ、道具を使うなどの細かな動作に必要である。この機能が低下すると、料理や食事、衣服の着脱、歯磨きといった日常生活動作に支障をきたすため、将来的には介護が必要になることが予想される。しかし、手指機能がどの程度低下していると要介護化リスクが高まるのか、その関連性を詳細に検証した研究はなかった。
約1,000人の高齢者を長期追跡調査し、手指機能と要介護化リスクとの関連を調査
そこで研究グループは今回、約1,000人の高齢者を対象に、最長14年間にわたる追跡調査を行い、手指機能が要介護化リスクとどのように関連するのかを調べた。
調査対象としたのは、茨城県笠間市で2009~2019年に実施された体力測定会に参加した65歳以上の高齢者のうち、介護認定歴がない1,069人(平均73.1±5.3歳、女性54.0%)。要介護度2以上の認定状況(同研究における要介護化の定義)を2023年まで追跡調査した(最長14.0年、平均8.5年)。手指機能は、ペグ移動時間と丸付け課題を用いて評価。手指機能と要介護化リスクとの関連性を検証する際には、年齢、性、学歴、ボディマス指標(BMI)、各既往歴(脳血管疾患、心臓疾患、糖尿病、高血圧、脂質異常症)、身体活動量、調査開始年を統計学的に調整した。
細かな日常生活動作に必要な手指機能を一定水準以上に保つことが重要と判明
追跡期間中に248人(23.2%)が要介護2以上の認定を受けた。分析の結果、ペグ移動時間(AUC=0.74)と丸付け課題(AUC=0.70)は、将来の要介護化を予測する有効な指標であることが確認された。また、手指機能のカットオフ値を基準に良好群と不良群に群分けしたところ(良好/不良:ペグ移動時間37.9/38.0秒、丸付け課題21/20個)、どちらの評価項目においても、不良群は良好群と比べて、将来的な要介護化リスクが顕著に高まる(ペグ移動時間:約2倍、丸付け課題:約1.5倍)ことが明らかとなった。また、その後の分析において、これらの評価項目の成績と要介護化リスクとの間には曲線的な量反応関係があることがわかった。具体的には、手指機能の各評価項目が上述のカットオフ値を下回ると要介護化リスクが高まる一方で、カットオフ値より良好であっても、統計学的なリスクの減少は認められないことが示された。
以上のことから、健康寿命の延伸には、これまで注目されてきた下肢機能だけでなく、細かな日常生活動作に必要な手指機能を一定水準以上に保つことが重要であることが示唆された。丸付け課題は、自宅でも数字一覧表などを用いて実施できるテストである。15秒間で21個以上丸が付けられるかチェックしていただき、これを下回る場合は、普段から手指を動かすことにも気を配る必要がある。
地域の介護予防の現場や自宅で実施できる手指機能維持・改善プログラムの開発目指す
同研究を通して、高齢者の手指機能が低下すると、将来的な要介護化リスクが高まることが明らかになった。研究グループは今後、この知見を生かし、地域の介護予防の現場や自宅で実施可能な手指機能の維持・改善プログラムの開発を目指す、と述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL


