薬物療法だけでは症状が残るパニック症患者、治療法確立が望まれる
千葉大学は9月29日、薬物療法を行っても症状が残るパニック症患者に対して、医療機関のセラピスト(公認心理師)によるオンラインでの認知行動療法が、通常診療のみを行う場合よりも、有効性が優れていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大子どものこころの発達教育研究センターの関陽一助教、同大大学院医学研究院の清水栄司教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Psychiatry」に掲載されている。

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パニック症は、強い不安とともに、動悸や息切れ感、めまいなどのパニック発作を繰り返し、外出が難しくなってしまうなど日常生活や社会活動に深刻かつ重大な影響を与える精神疾患である。パニック症の治療には薬物療法と認知行動療法などの心理療法がある。認知行動療法とは、自身の不安を強めてしまう考え方の傾向に気づき、それを整理しながら、少しずつ行動を広げていくことで気持ちを楽にする心理療法である。欧米では認知行動療法の研究が進んできており、治療ガイドラインにも取り入れられている。日本では認知行動療法を実際に提供できる専門家が限られていることもあり、薬物療法が主要な治療法として広く行われてきた。一方で、薬物療法を行っても症状が残る患者も少なくなく、エビデンスのある治療法の確立が望まれていた。
薬物療法で改善しない患者30人対象に、オンライン認知行動療法の臨床研究を実施
そこで今回、研究グループが開発した「パニック症に対するオンラインによる個人認知行動療法」を用い、薬物療法で十分に改善しないパニック症患者に対して臨床研究を行った。同研究は、通常診療として適切な薬物療法を行っても、十分な改善を認めないパニック症患者30人(平均年齢39.6歳、20歳~58歳、男性11人、女性19人)を対象とした。研究参加者を、通常診療に加えてオンライン個人認知行動療法を受ける「介入群」と通常診療のみを継続する「対照群」にランダムに割り付け、介入群には、千葉大学医学部附属病院認知行動療法センターのセラピスト(公認心理師)が週1回50分、全16回にわたり、オンラインで認知行動療法を提供した。介入群の患者は、自宅でパソコンやタブレットを用いて、セラピストとビデオ会議で対話をしながら、パニック症状の仕組みの理解、対処スキルの習得や行動実験などの認知行動療法に取り組んだ。
パニック症の重症度評価尺度、有意に改善
研究の結果、主な評価指標であるパニック症の重症度評価尺度「PDSS(Panic Disorder Severity Scale)」による症状スコアは、介入群において平均12.8点から5.4点へと有意に改善。一方、対照群では明らかな変化は見られず、その差は統計的に有意であり、オンラインによる認知行動療法の有効性が示された。また介入群において80%の患者が改善を認め、67%の患者が寛解基準に達した。また、同臨床試験では重篤な有害事象は報告されておらず、安全な治療法であることも確認された。
今後、長期的効果を確認の研究を進める
同研究結果から、薬物療法を受けても症状が残るパニック症の患者にとってオンライン認知行動療法が新しい治療の選択肢となる可能性が示された。これまで研究グループは、比較する「対照群」を置かないパイロット研究で、パニック症、強迫症、社交不安症の3つの不安に関連する精神疾患の患者に対して、オンライン認知行動療法の実用可能性と前後比較で症状が改善する可能性を示した。同研究は、薬物療法を受けても症状が残る患者を対象とし、また、比較する対照群を置いて、ランダム化比較試験で対照群よりも優れた有効性を明らかにできた世界初の研究であり、薬物療法でよくならない患者に改善の可能性を示せた点に大きな意義があると考える。今後は長期的な効果を確認する研究を進めるとともに、将来的に日本の多くの施設でオンライン認知行動療法が受けられるようにしたいと考えている、と研究グループは述べている。
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・千葉大学 プレスリリース


