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胃がん悪液質、グレリン受容体作動薬アナモレリンの改善効果を実証-阪大

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2025年10月02日 AM09:00

がん悪液質に対する有効な薬物療法は確立されていない

大阪大学は9月23日、計10施設が参加したランダム化比較試験において、胃がん悪液質に対するアナモレリンの有効性と安全性が示されたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科消化器外科学の山本和義講師(研究当時)、黒川幸典准教授、土岐祐一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「eClinicalMedicine」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
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がん悪液質(cancer cachexia)は、進行がん患者の50~80%に発症すると報告されており、特に肺がんや消化器がんで高頻度にみられる重篤な合併症である。栄養補給のみでは回復できない持続的な体重減少と骨格筋量の低下が特徴であり、著しい身体機能の障害と予後不良をもたらす。腫瘍由来因子と宿主炎症反応が複雑に絡み合うことで代謝異常や異化反応が進行し、治療継続を困難にする臨床的課題となっているが、これまで有効な薬物治療はほとんど存在せず、大きなアンメット・メディカル・ニーズが残されていた。

胃がん悪液質にグレリン受容体作動薬「アナモレリン」は有効か?

このような背景から注目されているのが、1999年に発見された消化管ホルモン「グレリン」である。グレリンは食欲刺激、体重増加、筋肉量増加、抗炎症作用など多彩な生理作用を持つことが知られている。研究グループは、胃切除後に血中グレリン濃度が著しく低下することを世界で初めて報告し、グレリンの臨床的重要性を明らかにしてきた。

アナモレリンは、経口のグレリン受容体作動薬で、非小細胞肺がん悪液質を対象とした国際共同第3相試験(ROMANA 1・2試験)において、食欲、体重、除脂肪体重(LBM)の改善効果が報告されている。しかし、消化器がん、とりわけ胃がんにおけるアナモレリンの効果については、これまで小規模な第3相試験や観察研究に限られており、有効性については議論があった。

胃がん患者203人を対象にアナモレリンの有効性・安全性を検証

今回の研究では、切除不能または再発胃がん患者を対象とした世界初の多施設共同ランダム化比較試験を実施し、アナモレリンの有効性と安全性を検証した。試験には大阪大学大学院医学系研究科と関連病院の計10施設が参加した(登録期間:2021年11月17日~2024年7月4日)。

同試験では、悪液質を伴う切除不能進行または再発胃がんに対して1~3次化学療法を予定または実施中の患者203人を、アナモレリン(100mg/日)を12週間投与する群(104人)と非投与群(99人)に無作為に割付けた。最終的に、アナモレリン投与群101人と非投与群97人が解析対象となった。

アナモレリン投与群で除脂肪体重が増加、肺がん悪液質での結果と一致

その結果、主要評価項目である8週間後の除脂肪体重の変化量について、アナモレリン投与群で非投与群に比べて増加傾向を示し(+0.99kg vs +0.14kg、P=0.063)、ANCOVA補正解析では有意差を認めた(+1.077kg、P=0.018)。約1kgの除脂肪体重増加は、非小細胞肺がん悪液質を対象としたROMANA1・2試験の結果と同等であり、アナモレリンの除脂肪体重に与える効果の再現性が確認された。

また、サブグループ解析の結果から、PS 0-1と体力が比較的保たれている症例や、化学療法歴が短い1次化学療法中の症例で、除脂肪体重の改善効果を認めやすいことが明らかになった。

アナモレリンで全体重・脂肪量が増加、副作用軽減・QOL改善も確認

さらに、アナモレリン投与群では8週間後の全体重(+1.17kg vs -0.59kg、P<0.0001)および脂肪体重(+0.15kg vs -0.73kg、P=0.040)の増加が見られた。8週間後の握力変化量には差がなかった。

化学療法の奏効率には差がなかったが、化学療法に伴うGrade 2以上の食欲不振や嘔気などの副作用の発生率が有意に低下した。食事関連QOL(「食欲はありましたか?」「食事が美味しいと思いましたか?」)の項目でも有意な改善を認めた。

安全性も良好、がん医療の新たな治療選択肢として期待

安全性については、Grade 3の高血糖1例以外にアナモレリン投与による重篤な有害事象は認めなかった。

今回の研究により、アナモレリンが胃がん悪液質患者の体重や食欲を改善し、化学療法継続を支える可能性が示された。これは、患者の生活の質の向上に直結する成果であり、社会的にも大きな意義を持つ。

「グレリン研究の知見を基盤とする本成果は、今後の薬物療法・栄養療法・運動療法を組み合わせた多面的アプローチの発展につながり、がん医療に新しい治療選択肢を提供することが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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