「寒さ・精神性疲労」同時発生の影響、生体への影響は?
大阪公立大学は9月12日、健康な20代の若年男性9人に、10℃〜15℃の水循環スーツによって全身表面を冷却した後、心理課題による精神性疲労を誘発させる試行(MS)と、対照としてドキュメント映像を視聴させる試行(CON)をそれぞれ実施させた研究結果を発表した。この研究は、同大研究推進機構都市健康・スポーツ研究センターの今井大喜准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Journal of Applied Physiology」に掲載されている。

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持久性運動パフォーマンスは、気温や精神状態など、複数の要因によって左右される。寒冷ストレス(寒さ)は一般的に「パフォーマンスを下げる」イメージがあるが、軽い寒さ(約10℃)では、他の気温条件よりも高いパフォーマンスを発揮できることが知られている。また、暑熱環境では、運動前に体を冷やす「プレクーリング」によってパフォーマンス低下を抑えられることも報告されている。一方、極端な寒さや運動前の過度な冷却は、筋肉や神経の働きを鈍らせ、パフォーマンスを低下させる。このような反応には、ストレス反応経路の一つであるSAM系(交感神経-副腎髄質系)の関与が示唆されている。
精神性疲労は、長時間にわたって集中するような作業や心理的プレッシャーによって生じる。運動前に精神性疲労があると、運動中の呼吸・循環応答やエネルギー代謝には直接影響しないものの、「意欲の低下」や「疲労感の増加」を引き起こし、結果としてパフォーマンスを低下させる。特に暑熱環境では、精神性疲労がストレス反応のもう一つの経路であるHPA系(視床下部-下垂体-副腎皮質系)を介して作用し、パフォーマンス低下に関与する可能性が示されている。しかし、「寒さ」と「精神性疲労」が同時に生じた場合の影響は、これまでほとんど検討されていない。寒さによるネガティブな影響に精神性疲労が加わることで、生体にどのような変化が起こるのかは不明であり、相乗的な作用や個人差の大きな反応が現れる可能性がある。
全身冷却+精神性疲労後の、持久性運動パフォーマンスや主観的疲労感等を検討
今回の研究では、全身を冷却しながら心理課題を課して精神性疲労を誘発し、その後の持久性運動パフォーマンスを評価するとともに、主観的疲労感やストレス反応とそれらの関係について詳細に検討した。健康な20代の若年男性9人を対象に10℃~15℃の水循環スーツによって全身表面を冷却する間に、心理課題による精神性疲労を誘発させる試行(MS)と、ドキュメント映像を視聴させる試行(CON)の2試行の後、疲労困憊(一定の回転数を維持できず、自覚的運動強度が既定上限に達するまで)に至るまでの自転車漕ぎ運動を実施した。
疲労感の増加、個人レベルでは持久性運動パフォーマンス低下につながる
その結果、持久性運動パフォーマンスに条件間の差は見られなかったが、個人レベルに着目して解析すると、持久性運動パフォーマンスは、主観的疲労感が増加した者ほど低下することが明らかとなった。また、疲労感の増加には、HPA系よりSAM系の関与が示唆された。
競技力や寒冷地での作業効率の向上などへの貢献に期待
同研究の成果は、スポーツ現場において、複合要因によるパフォーマンス低下を防ぐ新たなコンディショニング戦略やサポート体制の構築に生かすことができる。今後は、寒冷ストレスと精神性疲労の影響を最小化する具体的な手法の確立や、影響を受けやすい個人特性の解明がさらに進むことで、競技力や寒冷地での作業効率の向上などが期待される、と研究グループは述べている。
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