父親が家庭内暴力の被害者である場合の影響は不明だった
国立成育医療研究センターは8月25日、周産期の父親が家庭内でパートナーからの暴力(IPV: Intimate Partner Violence)を経験している場合、家庭内において子どもへの虐待が起こるリスクが約2倍に高まることを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター社会医学研究部 帯包エリカ研究員、同センター政策科学研究部 竹原健二部長らの研究グループと、東京大学大学院医学系研究科の西大輔教授、東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野の田淵貴大准教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Pediatric Research」に掲載されている。

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これまでの研究では、母親が家庭内で暴力を受けた場合の影響について多くの知見が蓄積されてきたが、父親が被害者となる場合の影響については、ほとんど明らかにされていなかった。
そこで研究グループは、2021年8月に実施された全国インターネット調査「JACSIS調査」に参加した、生後1年以内の子どもを育てる父親1,248人のデータを分析した。
家庭内暴力被害者の父親13.6%、子への身体・心理的虐待約2倍、ネグレクト約3倍
その結果、13.6%の父親が、心理的・身体的・経済的・性的な家庭内暴力を経験したと回答。そのような父親がいる家庭では、子どもへの身体的虐待(約2.0倍)、心理的虐待(約2.1倍)、ネグレクト(約3.1倍)とリスクが上昇していた。
父親の暴力被害がある場合、家庭内の緊張やこどもとの関係や接し方を介して、子どもの虐待被害につながる可能性が考えられた。また、暴力被害を経験した父親は心理的苦痛を抱えるリスクが高まり、メンタルヘルス支援の必要性が示された。
母親・父親の別を問わず、必要な支援が適切に届けられる仕組みを検討することが必要
今回の研究により、「父親も家庭内暴力の被害者となり得る」ことと、その影響が子どもに及ぶ可能性が初めて大規模データに基づいて示され、家族支援政策における新たな視点が提供された。しかし、同研究は「男性被害者の支援拡充=女性被害者支援の後退」を意味するものではない。母親に対する支援の重要性は今後も変わることなく、同研究もそれを前提としている。
一方、父親が支援から取り残されがちであるという現実にも目を向ける必要がある。家庭内での暴力や不和がある場合、それは家族のどのメンバーにとっても大きなストレスとなり、子どもの健やかな成長にも影響を及ぼす可能性がある。そのため、性別にかかわらず、全ての親と家庭を支援の対象とすることが、家族全体の福祉の向上につながると考えられる。
この研究は、誰かを責めることを目的としたものではない。父親が家庭内で困難な経験をしている場合もあるという現実を共有し、家族全体を支えるための支援体制づくりに貢献したいと考えている。母子保健から家族全体の支援へと視点を広げることが、子どもの安全と健やかな育ちを支える道だと考える。現在の支援制度では、父親が単独で相談できる場が限られており、支援のタイミングを確保することも容易ではない。今後は、母親・父親の別を問わず、必要な支援が適切に届けられる仕組みを検討することが求められる、と研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース


