日本の中途失明原因第1位の緑内障、根治療法開発が求められている
京都府立医科大学は8月22日、原発閉塞隅角緑内障の新たな発症メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科ゲノム医科学の中野正和准教授、田代啓教授、視覚機能再生外科学の外園千恵教授、同大寄附講座感覚器未来医療学講座の木下茂教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。

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緑内障は目の内部の圧力(眼圧)が主要な要因として網膜の神経節細胞が傷害され、視機能障害が不可逆的に進行するため最終的には失明に至る疾患で、日本における中途失明原因の第1位である。緑内障の標準的な治療法は眼圧降下薬の点眼治療である。しかし、眼圧下降により緑内障の病期の進行の抑制はできるものの、緑内障を治癒させる治療法は存在しない。日本人の大規模な疫学調査(多治見スタディ)によると、40歳以上の有病率は約5%(病型別にみると原発開放隅角緑内障が3.9%、原発閉塞隅角緑内障は0.6%を占める)と高く、70歳台では有病率が10%にも上昇することから、少子高齢化社会を迎えている日本にとっては深刻な疾患である。従って、緑内障の発症メカニズムの解明を起点とした分子標的薬の創生による根治療法の開発が切望されている。
研究グループはこれまでに緑内障の主要な病型(原発開放隅角緑内障、原発閉塞隅角緑内障および落屑緑内障)に対するゲノムワイド関連解析を実施し、緑内障の発症に関連する多数のコモンバリアントを同定することによって遺伝的要因の解明を進めてきた。さらには、落屑緑内障のエキソーム解析によって、シトクロムP450の一つであるCYP39A1遺伝子から落屑緑内障に関連するレアバリアントを同定することに成功し、CYP39A1のレアバリアントに起因する酵素活性の低下が落屑緑内障の発症の要因になっている可能性を示した。
原発閉塞隅角緑内障のレアバリアント同定を目的とした大規模エキソーム解析実施
原発閉塞隅角緑内障は、目の内部を循環している房水の排水溝である隅角が、他の明らかな要因なく遺伝的背景や加齢により閉塞し、房水の排水が悪くなる結果、眼圧が上昇し発症する緑内障である。研究グループは今回、原発閉塞隅角緑内障のエキソーム解析を実施することによって原発閉塞隅角緑内障患者に関連するタンパク質の機能変化をもたらすエキソン上のレアバリアントの同定を試みた。
今回の研究では、国際共同研究のもと、各国各施設での倫理委員会の承認とインフォームドコンセントを取得し収集した原発閉塞隅角緑内障患者(ケース)および非緑内障健常者(コントロール)の血液検体由来のゲノムDNAを用いて大規模なエキソーム解析およびその再現性取得実験を実施した。さらには、同定されたバリアントがタンパク質の機能にもたらす影響を明らかにするために分子生物学的な解析を加えた。
UBOX5遺伝子エキソン上に有意水準満たすバリアント同定、発症リスク2.13倍上昇
エキソーム解析では、次世代シーケンサーを用いてケース4,667検体およびコントロール5,473検体のエキソームデータを取得し、ケース・コントロール相関解析を実施した。その結果、有意水準(P<2.5×10-6)を超すアミノ酸置換を伴うレアバリアントがユビキチン化反応を触媒する酵素であるu-box domain containing 5(UBOX5)遺伝子のエキソン上から同定された。同定されたバリアントについてはケース2,519検体およびコントロール47万1,724検体を用いた再現性取得実験において関連性が再現された。エキソーム解析と再現性取得実験とのメタ解析(総計ケース7,186検体およびコントロール47万7,197検体)の結果、UBOX5のバリアントは有意に(P<1.25×10-10)原発閉塞隅角緑内障に関連しており、発症リスクを2.13倍高めることが明らかになった。
UBOX5は虹彩の瞳孔括約筋などに発現、レアバリアントの半数以上で活性低下
UBOX5は、原発閉塞隅角緑内障の病因や病態に関連していることが示唆されている虹彩の瞳孔括約筋や視神経乳頭、網膜神経節細胞などのヒトの眼組織において発現が認められた。また、UBOX5がユビキチン化する標的タンパク質を免疫沈降法により探索した結果、binding immunoglobulin protein(BIP)が同定された。さらに、今回の研究で同定された42種類のレアバリアントを有するUBOX5についてBIPに対するユビキチン化の割合を測定したところ、24種類のバリアントを有する酵素でユビキチン化反応の触媒活性が低下していることが判明した。
発見されたUBOX5-BIP経路、原発閉塞隅角緑内障の治療標的として期待
国際共同研究のもと、大規模エキソーム解析を実施した結果、原発閉塞隅角緑内障に関連するレアバリアントがユビキチン化酵素UBOX5から同定された。さらには分子生物学的な解析の結果、UBOX5の標的遺伝子がBIPであることが判明し、レアバリアントを有するUBOX5ではBIPのユビキチン化の割合が低下していることが明らかになった。UBOX5が原発閉塞隅角緑内障の病因・病態に関連する眼組織において発現していることからも、UBOX5の活性の低下が原発閉塞隅角緑内障の発症に関与していることが強く示唆された。「今回の研究成果は原発閉塞隅角緑内障の発症メカニズムのさらなる解明や本バリアントを有する症例に対するUBOX5の機能回復による発症予防や進行遅延につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・京都府立医科大学 プレスリリース


