統合失調症の陰性症状や認知機能障害に対する有効な治療法は未確立
浜松医科大学は8月22日、統合失調症におけるα7ニコチン性アセチルコリン受容体(α7 nACh受容体)の変化をPET脳画像検査で明らかにしたと発表した。この研究は、同大精神医学講座の和久田智靖講師、横倉正倫助教、山末英典教授らの研究グループと、同大光医学総合研究所光量子技術開発部門バイオフォトニクスイノベーション寄附講座の間賀田泰寛特任教授、尖端生体イメージング研究部門生体機能イメージング分野の尾内康臣教授の共同研究によるもの。研究成果は、「Molecular Psychiatry」に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
統合失調症は、幻覚や妄想などの陽性症状、意欲低下や感情鈍麻などの陰性症状、記憶力や注意力の低下といった認知機能障害を特徴とする精神疾患だ。現行の治療薬であるドパミン受容体を標的とした抗精神病薬は陽性症状に効果がある一方で、陰性症状や認知機能障害に対する効果は限定的であり、ドパミン受容体に代わる新たな治療標的の探索が求められている。
統合失調症患者の脳におけるα7 nACh受容体の挙動をPETで解析
α7 nACh受容体は、アセチルコリン受容体の一つで、記憶力や注意力などの認知機能に関わっている。この受容体は神経炎症に関与する活性化グリア細胞にも発現しており、近年では炎症を抑える作用が注目されている。しかし、統合失調症におけるα7 nACh受容体の変化と神経炎症、および両者の関連性については、これまで十分に検証されていなかった。
そこで今回の研究では、統合失調症患者19人と年齢・性別を一致させた健康な20人を対象に、[11C](R)-MeQAAと[11C]DPA713のPETトレーサーを用いて、それぞれの結合能(密度・活性の指標)を同時測定し、α7 nACh受容体結合とグリア細胞の活性化を全脳で評価した。
統合失調症患者の脳ではα7 nACh受容体が活性化、神経炎症・言語流暢性とも関連
その結果、統合失調症患者では、健康な人と比べてα7 nACh受容体に対する[11C](R)-MeQAA結合能が上昇していた。また、統合失調症患者では、α7 nACh受容体結合の上昇とグリア細胞の活性化との間に正の相関が見られた。
さらに、[11C](R)-MeQAA結合能上昇と言語流暢性課題の成績の間にも正の相関(α7 nACh受容体結合が高いほど、言語流暢性の障害が軽い)を確認した。注目すべき点として、統合失調症患者の右海馬周辺では、α7 nACh受容体結合の上昇とグリア細胞の活性化・言語流暢性課題の成績が関連していた。
統合失調症とα7 nACh受容体の関連を示す知見、新たな治療標的として期待
今回の研究結果から、統合失調症患者に見られたα7 nACh受容体結合の上昇は、神経炎症と関連があり、認知機能障害を補うような代償的な変化である可能性が考えられた。
「今後、この受容体結合が上昇するメカニズムをさらに明らかにしていくことで、α7 nACh受容体を標的とした新しい統合失調症治療薬の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・浜松医科大学 ニュース


