医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 肥満・糖尿病、脂質構造とレプチン抵抗性リスクの関連をマウスで解明-明大

肥満・糖尿病、脂質構造とレプチン抵抗性リスクの関連をマウスで解明-明大

読了時間:約 3分16秒
2025年08月20日 AM09:00

脂質構造の違いはレプチン感受性にどのように影響するか?

明治大学は8月6日、脂質構造の違いによって、抗肥満ホルモンであるレプチンの作用が変わることを発見したと発表した。この研究は、同大農学部の金子賢太朗准教授、大学院農学研究科博士課程前期の池田睦氏、椎野珠江氏、成毛開氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS One」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

肥満は2型糖尿病や心血管疾患、特定のがんの発症リスクを高め、平均寿命を短縮することから、深刻な社会課題の一つとなっている。レプチンは、脂肪細胞から分泌されるホルモンで、食欲の抑制と正常体重の維持に重要な役割を持つ。しかし、高脂肪食摂取などの過栄養状態においては、視床下部においてレプチンに対する感受性が低下(レプチン抵抗性)し、肥満が引き起こされることが知られている。

これまでに研究グループは、グリセロールsn-2位にパルミチン酸が結合した2-モノパルミチン酸(βパルミテート)を高脂肪食誘導肥満マウスに脳室内投与すると、視床下部でのレプチン感受性が向上し、抗肥満効果を発揮することを明らかにしている。

2-モノパルミチン酸は自然界の動物性脂質においてラードに豊富に含まれる(70.5 mol%以上含有)。一方、牛脂はラードと類似した脂肪酸組成を持ちながら、2-モノパルミチン酸の含有量が少ない(約15 mol%)。そこで今回の研究では、ラードと牛脂の摂取による過栄養状態が、視床下部のレプチン感受性やエネルギーバランスに及ぼす影響を検討した。

ラードは牛脂よりも肥満・糖代謝異常を誘発しにくい

実験では、ラードまたは牛脂を使って脂質のカロリー比が30~45%となるよう調整した特殊脂質食をマウスに与え、過栄養状態を誘導した。

45 kcal% fat条件下においては、ラード群は牛脂群と比較して、体重増加の抑制および体脂肪量の減少効果が認められた。また、ラード摂取による過栄養状態では、牛脂摂取の場合と比較して、空腹時および満腹時の血糖値が低く、高い耐糖能とインスリン感受性が確認された。さらに、ラード摂取群は、血中インスリン濃度が低く、血中GLP-1濃度が高いことから、ラードは牛脂と比較して、過栄養状態においてグルコースバランスを維持しやすいことが明らかになった。

ラード摂取群は牛脂摂取群よりも視床下部のレプチン感受性が高い

ラード摂取が牛脂摂取よりも体重増加を抑制するメカニズムを明らかにするため、体重を一致させた条件下において、小動物総合モニタリングシステム(CLAMS-Oxymax/ACTIMO)解析および視床下部サンプルを用いた遺伝子発現解析を実施した。解析の結果、ラード摂取マウスでは活動期の摂食量・呼吸商が低下し、視床下部において摂食促進に働くAgRP遺伝子の発現が低下することを見出した。

そこで、視床下部において摂食抑制作用に関わる重要なホルモンであるレプチンの作用に着目した。ラード摂取マウスでは、脳室内投与したレプチンによる体重減少・摂食抑制作用が牛脂摂取マウスよりも強く見られ、レプチン抵抗性が抑制されていることが明らかになった。

さらに、視床下部におけるレプチンシグナルの中核経路であるSTAT3リン酸化を測定したところ、ラード摂取マウスではレプチン依存的なSTAT3リン酸化が確認された。興味深いことに、ラードまたは牛脂の30 kcal% fat条件下では、体重に差がないにも関わらず、ラード摂取マウスは牛脂摂取マウスよりも視床下部でのレプチン感受性が高かった。

ラードのエネルギー・糖代謝制御作用はレプチンを介する可能性

レプチンを欠損した肥満モデルob/obマウスにラードまたは牛脂を摂取させたところ、野生型マウスで認められた体重増加の抑制や呼吸商の低下といった表現型は消失した。このことから、ラード摂取依存的なエネルギー代謝制御作用におけるレプチンの関与が示された。加えて、ラード摂取マウスの視床下部では、レプチンシグナルの阻害因子であるSOCS3遺伝子の発現が牛脂摂取マウスと比較して有意に抑制されていた。

以上の結果から、肥満や糖尿病を誘導する過栄養状態において、ラードは牛脂と比較して視床下部のレプチン感受性や全身の糖代謝を維持しやすい脂質である可能性が示された。

脂質構造による機能性の違いを解明し、最適な脂質摂取の基盤となる成果

近年、地中海式高脂肪食が低脂肪食よりも体重減少効果が高い(DIRECT試験)ことが示されるとともに、米国では総脂質摂取量の上限撤廃が決定し、飽和脂肪酸摂取量についても議論されるなど、従来の脂質のイメージが変わりつつある。今回の研究で着目した動物性脂質は、長鎖飽和脂肪酸を多く含むことから、これまで健康への悪影響が懸念されてきたが、脂質構造の違いによる機能性の多様性が明らかになった。

同グループは食欲、エネルギー代謝、糖代謝、情動、認知・学習、睡眠などのさまざまな評価指標を用いた検討によって、動物性脂質にも多様な機能性が存在することを明らかにしてきた。「牛脂摂取によるポジティブな効果も見出しており、ラードや牛脂に着目した実証実験も進めている。脂質の構造に着目した一連の研究を発展させることで、ライフイベントに合わせて最適な脂質を選択するような新しい食育につなげていきたい」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 重症心不全の回復予測因子を同定、IDH2/POSTN比が新たな指標に-東大ほか
  • 急変する環境での集団意思決定パフォーマンスを改善する仕組みを解明-東大ほか
  • コーヒーと腎機能の関係、遺伝的多型が影響の可能性-徳島大ほか
  • リンチ症候群、日本人の病的バリアント大規模解析で臨床的特徴が判明-理研ほか
  • 変形性膝関節症の高齢者、身体回転のイメージ形成が困難に-大阪公立大