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人工膝関節置換術、術後QOLと関連する複合的因子を解明-畿央大ほか

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2025年06月18日 AM09:00

どのような要因が術後QOLに影響を及ぼすか?

畿央大学は6月6日、人工膝関節置換術後の患者において、単独で術後QOLに影響を与える弱い術前因子は、他の関連因子と複合的に組み合わさることで単独因子の影響よりも強くなるという関連性をアソシエーションルール分析で明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院客員研究員の山藤滉己氏、山野宏章氏(宝塚医療大学)、重藤隼人氏(京都橘大学)、鳥澤幸太郎氏(山内ホスピタル)、高﨑博司氏(埼玉県立大学)、瓜谷大輔教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLoS One」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

変形性膝関節症は、膝のこわばり・不安定性・疼痛を主訴とする代表的な変性疾患だ。60歳以上では、画像上80%以上に変形性変化が見られ、約40%が症状を訴え、約10%が日常生活に支障を来すと報告されている。

変形性膝関節症に伴う痛みと機能障害は、QOLの低下と強く関連する。このような痛みや機能を改善する治療として、人工膝関節置換術が広く行われており、術後QOLの改善が期待されるが、約30%の患者では術後1年経過しても十分なQOL回復が得られない。

近年、人工膝関節置換術後の患者QOLを左右する術前要因として、性別、Body Mass Index(BMI)、学歴、膝痛の強さ、合併症の数、心理社会的問題などが報告されている。しかし、これらの要因はいずれも単独ではQOLへの影響が弱いとされ、システマティックレビューでも一貫した結論は得られていない。実際には「単独で弱い要因」同士が複合的に組み合わさることで、術後QOLに強い影響を及ぼす可能性が示唆されるが、その組み合わせや影響度の変化は明らかになっていなかった。

術前因子が術後2年のQOLに与える影響を単独・複合の2パターンで評価

今回の研究では、単独では術後QOLへの影響が弱い術前因子が他の関連因子と複合的に組み合わさった場合の影響度を検討した。解析では、米国の変形性膝関節症データベース(Osteoarthritis Initiative;OAI)に登録されている4,796人のうち、(KR)の術前から術後2年間追跡可能であった44人を対象とした。

評価項目は、「性別」「年齢」「BMI」「立ち上がりテスト」「人工膝関節置換術を行ったのは片側か、両側かの情報」「合併症(Charlson Comorbidity Index;CCI)」「抑うつ症状(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale;CES-D)」「関節症状(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index version LK 3.1;WOMAC)の疼痛」「こわばり」「身体機能」「QOL尺度(Short Form12;SF12)の身体的側面(Physical Component Score;PCS)および精神的側面(Mental Component Score;MCS)」を使用した。各変数は等頻度区間法で「高値」と「低値」の2群に分類し、「アソシエーションルール分析」という手法を用いて、術前因子と術後QOLに対する影響度および術前因子が組み合わさった場合の術後QOLへの影響度の変化を検証した。

アソシエーションルール分析では、「信頼度:ルールの正確性」「支持度:ルールの出現率」「リフト値:ルールの有用性」の3つの指標に基づいてルールを抽出した。複合的な関連ルールの抽出は、ルールの正確性の指標である信頼度が80%以上、リフト値1.1以上であることを条件に抽出した。

アソシエーションルール分析の抽出条件を満たしたルールについては、ルールの条件に該当した群を「該当群」、該当しない群を「非該当群」として分類した。条件変数の該当群と非該当群の比率が統計学的に有意であるかを判断するために、Fisherの正確確率検定またはχ2検定を実施した。複合的ルールでは、単独ルールで設定した抽出条件を満たし、分割表の検定で関連を認めた要因が、別の要因と組み合わさることで単独ルールと比較して信頼度、リフト値が高値を示すのかを検討した。

単独で最も影響の強い術前因子は「合併症」

単独ルールでは、「合併症(1つ以上)」「術前WOMAC身体機能高値」「術前WOMAC疼痛高値」「術前PCS低値」「術前立ち上がり動作不良」「高齢」「術前WOMACこわばり高値」がリフト値の降順に抽出された。分割表の検定において、条件変数の該当群と非該当群の比率に有意差を認めた項目は「合併症」「術前WOMAC身体機能低下」「術前WOMAC疼痛高値」「術前PCS低値」「立ち上がり能力低下」「高齢」だった。信頼度とリフト値が最上位かつ分割表の検定結果において有意差を認めたルールは、「合併症(信頼度100%、リフト値1.38)」だった。一方、術後1年と2年MCS低値の単独ルール、術後1年PCS低値の単独ルールは抽出されなかった。

複合で影響度が強くなる術前因子は「身体機能低下」「疼痛高値」「高齢」など

術後2年PCS低値単独ルールで関連を認めたルールのうち、「術前PCS低値」「術前WOMAC疼痛高値」「術前WOMAC身体機能低下」「立ち上がり能力低下」「高齢」は他要因と組み合わさることで信頼度・リフト値が単独ルールよりも高値を示した。これらのルールは、分割表の検定において条件変数の該当群と非該当群の比率に有意差を認めた。

複合要因の重要性を示唆、今後は日本人での研究が必要

今回の研究結果は、人工膝関節置換術後の患者QOLを評価する際には、単独因子だけでなく、複数要因の組み合わせによる影響度の変化を考慮する必要があることを示唆している。

「本研究は後ろ向き研究であり、他の関連因子(心理社会的側面の問題や社会的因子)を考慮できていない。今後は、日本人を対象に前向き研究を実施し、他の交絡因子を含めた場合の影響について調査研究を進めていく」と、研究グループは述べている。

 

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