既存の抗真菌薬は限定的な効果や高毒性が課題
東京医科大学は5月26日、ヒトが元来保有するマイクロRNA(miRNA)が、難治性感染症を引き起こす病原真菌「アスペルギルス フミガツス」の標的病原性因子の発現を制御することを示したと発表した。この研究は、同大微生物学分野の中村茂樹主任教授、犬飼達也助教、渡邊陸人修士課程大学院生(当時)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。

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現在、肺アスペルギルス症の治療に利用されている抗真菌薬として、真菌細胞膜を標的とするアゾール系薬とポリエン系薬、および細胞壁を標的とするエキノキャンディン系薬の合計3系統が存在する。しかし近年では、環境や患者からアゾール系薬耐性のアスペルギルス属真菌の出現が確認されており、治療に有効な抗真菌薬はますます少数に限定されることが懸念されている。さらにヒトと真菌が生物学上近縁であることから、抗真菌薬を真菌にのみ効かせることが困難であるため、既存の抗真菌薬はヒトに対して高い毒性を示すことも問題となっている。
ヒト元来保有のmiRNA+真菌指向型DDS、新治療薬候補となる?
これらの問題を解決するために研究グループは、ヒトが元来保有するmiRNAを新たな治療薬候補として用いることで、病原性因子の発現制御を試みた。また、これまでの報告でもRNA分子を用いた病原因子の発現制御は、アスペルギルス感染症に対する治療の選択肢となり得ることは示唆されてきたが、RNA分子を真菌が持つ強固な細胞壁を通過させることが困難で、治療応用のためには新たな真菌指向型ドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発が不可欠だった。
真菌の病原因子を標的とするmiRNA導入で、Alb1-HApタンパク質量は3分の1に減少
まず、アスペルギルス フミガツスの病原性因子である1,8-ジヒドロキシナフタレン(DHN)-メラニンの合成に関与するalb1を標的とするmiRNAを選抜して真菌のプロトプラストに導入したところ、alb1の発現量が減少した。
次に、3×HAタグ付きAlb1タンパク質(Alb1-Hap)発現株を作製し、抗HA抗体を用いたウェスタンブロッティングにより翻訳制御を確認したところ、miRNA導入後のAlb1-HApのタンパク質量は3分の1に減少した。
メラニン合成量の低下した菌体は好中球により排除されやすくなると判明
さらに、miRNA導入後の分生子を回収しメラニン合成量の減少を確認。メラニン減少に伴う表現型として、過酸化水素による酸化ストレス抵抗性の解除と好中球による排除の促進も確認された。
真菌を標的としたDDSにmiRNAを搭載し、in vitro無傷の真菌細胞に投与したところ、菌体内でのmiRNAの導入が確認された。さらに、過酸化水素による酸化ストレス抵抗性の解除も確認された。
核酸創薬と核酸を用いた新しい治療法開発への展開に期待
今回の研究により、真菌内にヒトが元来保有するmiRNAを導入することによって、真菌の病原因子発現の制御が可能であることが明らかになった。さらに、これまで真菌が持つ細胞壁が障壁となりmiRNAの菌体内への導入を困難にさせていた問題点を、真菌指向性DDSを使用することによって解決できる可能性が示された。
「本研究成果により、真菌症に対する治療戦略の一つとして、核酸創薬と核酸を用いた新しい治療法開発への展開が期待される」と、研究グループは述べている。
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