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ASD患者の死後脳解析で、メチル化状態の異なる関連遺伝子同定-和歌山医科大ほか

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2025年05月30日 AM09:15

ASD発症に影響大とされるエピジェネティック過程、縫線核背側部の研究は未実施

和歌山県立医科大学は5月21日、:autism spectrum disorder)当事者の死後脳を用いて縫線核のエピジェネティック制御機構を解析した結果、セロトニンによって制御される嗅覚関連遺伝子の高メチル化を見出し、これまでに知られていなかったASD関連遺伝子を同定したと発表した。この研究は、和歌山県立医科大学薬学部薬品作用学研究室の岩田圭子講師(福井大学子どものこころの発達研究センター)、国立成育医療研究センター母子生物学研究部の中林一彦氏、石渡啓介氏、秦健一郎氏(群馬大学大学院医学系研究科ヒト分子遺伝学分野)、弘前大学医学部精神神経科の中村和彦氏、浜松医科大学精神科の亀野陽亮氏、福井大学子どものこころの発達研究センター脳機能発達研究部門の松﨑秀夫教授らの研究グループによるもの。 研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載されている。


画像はリリースより
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ASDは、8歳までに約44人に1人の割合で発症する神経発達症である。正確な原因は解明されていないが、これまでの双生児研究報告により、ASDに強い遺伝的要素の関与が示され、多くの関連遺伝子が報告されている。しかし、ASDの根底にある遺伝的メカニズムは依然として不明である。遺伝率は以前の推定よりも低く、環境要因がASDの発症に大きな影響を与えることが報告されている。児が母親の胎内にいる時期に、母親が化学物質、ストレス、ウイルス感染などの環境要因へ曝露することで、児がASDを発症する可能性が示唆されている。つまり、環境要因がDNAメチル化やヒストン修飾を介して関連遺伝子発現を調節するエピジェネティック過程に、ASD発症の原因があるとする考え方である。

中脳および橋前部の腹側中心灰白質に位置する縫線核背側部は、ASDに関与する重要な領域で、研究報告も増えている。それは、この領域がセロトニン機能に関わる領域だからである。セロトニンは情動の安定、安心感や平常心、直観力など、脳を活発に働かせる鍵となる脳内物質で、ASDでは脳内のセロトニン機能の低下が多く報告されている。縫線核背側部は、前脳および末梢領域に広範囲に投射するセロトニン作動性ニューロンが最も多く存在し、セロトニン調節およびASD関連メカニズムにおいて中心的な役割を果たしている。しかし、ASDにおける縫線核背側部のDNAメチル化の状態は未解明のままで、この脳領域のエピジェネティック制御の理解は停滞していた。これまで複数の研究者が、ASD者の死後脳特異的メチル化領域を報告しているが、ほとんどが大脳皮質と小脳に焦点を当てている状況だった。

患者/健常者の死後脳を用い、縫線核背側部のゲノムワイドDNAメチル化状態を解析

研究グループは、ASD者とASDと診断されていない健康な対照群の死後脳組織を用いて、縫線核背側部領域におけるゲノムワイドDNAメチル化の状態の探索的研究を実施した。解析にはInfinium HumanMmethylation450 BeadChip (Illumina) を使用した。この装置は、5′-非翻訳領域 (UTR) を含むプロモーター領域、および遺伝子本体、遺伝子間、および 3′-UTRのCpG領域の DNA メチル化レベルを測定できる。

脳内のいくつかの常染色体遺伝子座におけるDNAメチル化レベルは性別に依存するため、メチル化解析には男性被験者のみを使用した。被験者(ASD者5人、対照群7人)の間で、年齢、民族、死後の経過時間に有意差はなかった。

ASDと対照間で51の差次的メチル化領域同定、セロトニン受容体2C関連領域に高メチル化

ASD群と対照群の間には51の差次的メチル化領域(DMR)が同定された。プロモーター領域、遺伝子本体領域、および遺伝子間領域のDMRの28%が高メチル化の増加を示していた。このうち、ASD群では、対照群と比較して、OR2C3やSPIBなど10遺伝子において11か所のCpG領域が有意に高メチル化していた。また、PM20D1やDCAKDなど20遺伝子において24か所のCpG領域が低メチル化していた。遺伝子間領域では、X染色体上にてセロトニン受容体2CをコードするHTR2Cの5′上流に位置するDMR領域が著しく高メチル化していることがわかった。

RABGGTB遺伝子、ASD群で低メチル化と発現増加の相関を確認

次に、ASD群でメチル化に有意差を示す遺伝子のmRNA発現レベルに注目した。メチル化異常が最も大きい上位4つの高メチル化および低メチル化領域から、プロモーター領域に異常メチル化されたCpGアイランドを持つ遺伝子として、OR2C3、COLEC11、DCAKD、RABGGTB、ZBTB40を選択し、これらの遺伝子の発現レベルを解析した。その結果、RABGGTB遺伝子のmRNA発現レベルだけがASD群で有意に増加しており、遺伝子メチル化の有意な減少を裏付けていた。この結果は、EMアンプリコンシーケンシングでも、RABGGTBのcg08702915のメチル化の有意な減少が確認できた。しかし、COLEC11、DCAKD、ZBTB40遺伝子については2つのグループ間で遺伝子発現に有意差は認められなかった。

メチル化アレイ解析に含めた男性サンプルのみの解析でも、同様の傾向が認められ、RABGGTB遺伝子のmRNA発現レベルが上昇する傾向があった。さらに、COLEC11、DCAKD、RABGGTB、ZBTB40遺伝子の発現と、各部位のメチル化アレイから得られたメチル化レベルとの相関を調べたところ、解析対象となった遺伝子の中で、RABGGTB遺伝子のみが発現レベルとメチル化レベルの間に負の相関傾向を示した。以上よりRABGGTB遺伝子は、新たなASD関連遺伝子であると結論した。

ASDにおけるエピジェネティック制御の解明に役立つ可能性

今回の研究は、これまで調べられていなかった縫線核背側部におけるDNAメチル化の包括的な解析を初めて提示しており、ASDの潜在的なメカニズムに光を当てるものである。ASDにおけるメチル化異常の理解、エピジェネティック制御の全体像の解明に役立つ可能性がある。特にRABGGTBの発現亢進は、そのプロモーター領域に存在するCGIの低メチル化と一致していたため、ASD関連遺伝子として有望である。「RABGGTBは、ASD関連遺伝子データベース(SFARIデータベース)には登録されていない新規関連遺伝子であり、今後は、DNAメチル化プロファイリングとトランスクリプトーム解析を組み合わせ、異常なDNAメチル化とRNA発現の関係を評価することが重要になる」と、研究グループは述べている。

 

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