口腔内の状態は健康寿命延伸の重要なカギ
大阪公立大学は5月21日、歯科健診未受診の高齢者で死亡リスクが約1.5倍になることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院看護学研究科の大槻奈緒子講師と大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センター保健管理部門の山本陵平教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Gerontology: Medical Sciences(The Journal of Gerontology series A)」のオンライン速報版に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
世界保健機関(WHO)は、高齢者にとって口腔の健康状態は大きな懸念事項であり、健康寿命の延伸を実現するための重要な要素であると提唱している。
日本では、高齢者の健康寿命の延伸を目指し、2018年度から75歳以上の後期高齢者を対象とした歯科健診(後期高齢者歯科健康診査事業)が開始された。高齢者に対する公的な歯科健診は世界的にも珍しいため、高齢者に対する健康スクリーニングとしての公的な歯科健診の有益性は明らかになっていない。そのため、歯科健診受診の促進には、歯科健診の有益性を検討することが必要不可欠だ。
約100万人の後期高齢者を対象に歯科健診の有効性を検証
今回の研究は、Oral Health Screening to Assess Keys of Aging well(OHSAKA) studyの一部として行われた。同プロジェクトは、大阪府民の健康寿命の延伸を目標として、2018年から実施されている大阪発の歯学領域世界最大規模の疫学研究。
分析対象は、2017年10月時点で大阪府後期高齢者医療保険に加入していた107万8,729人のうち、2017年10月~2019年3月まで継続して大阪府後期高齢者医療保険に加入していた75歳以上の94万6,709人。対象者は、歯科健診の受診有無と歯科・医療レセプトデータに基づき、「歯科健診あり/歯科受診あり」「歯科健診あり/歯科受診なし」「歯科健診なし/歯科受診あり」「歯科健診なし/歯科受診なし」の4群に分けられた。
「歯科健診なし」の高齢者、「あり」に比べて死亡リスクが男性1.45倍、女性1.52倍
約100万人の対象者は、それぞれ年齢や基礎疾患など背景因子が異なる。そこで、これらを調整するために、同じような背景因子を持つ人だけを統計的に選んで分析する「傾向スコアマッチング」という手法を用いて、歯科健診・歯科受診の有無と死亡の関連を生存時間解析で検討した。
その結果、「歯科健診あり/歯科受診なし」の高齢者に比べ、「歯科健診なし/歯科受診なし」の高齢者は、死亡のリスクが男性で1.45倍、女性で1.52倍であることが明らかになった。
歯科健診の有益性を示す結果、健康寿命延伸への貢献に期待
今回の研究において、歯科健診を受診していない群で高い死亡リスクを示した理由として、歯科健診のような定期的な歯科メンテナンスが歯の喪失予防や口腔衛生維持に有益であることや、歯科検診に行く高齢者はもともと健康意識が高く、死亡リスクを下げるような健康行動を取りやすいことが考えられる。また、日本では、「8020運動(80歳で20本以上の歯を保つ運動)」が国民に定着しており(2022年の達成率51.6%)、諸外国に比べて国民の口腔の健康意識は高いと推測されている。
「後期高齢者歯科健診事業は、まだ認知度が低いが、今回の結果を踏まえ、できるだけ多くの高齢者に歯科受診をしてもらいたい。歯科健診の機会を有効に活用することで、口腔衛生の維持・改善だけでなく、健康問題リスクを持った高齢者を適切に医科につなげるなど、歯科と医科の両面から国民の健康寿命の延伸に貢献できるのではないかと考えている」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・大阪公立大学 最新の研究成果