肝臓が肥満を感知する仕組みは未解明だった
東北大学は5月9日、大腸炎症がインスリン産生を促す仕組みを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科糖尿病代謝・内分泌内科学分野および東北大学病院糖尿病代謝・内分泌内科の今井淳太特命教授、久保晴丸医師(現北里大学病院 内分泌代謝内科 助教)、片桐秀樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JCI Insight」に掲載されている。

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インスリンは血糖値を下げる働きをもつホルモンで、膵臓のランゲルハンス島内にあるβ細胞で作られる。肥満が起こると、インスリンの効きが悪くなり血糖値が上がりやすくなるが、それに対してβ細胞の数が増え、インスリンをたくさん作ることによって血糖値の上昇が抑制される。
これまで研究グループは、肥満時に肝臓内のERK経路の活性化が起点となり、肝臓→内臓神経→脳→迷走神経→膵臓という神経信号伝達システムを使って膵臓に信号を送ることでβ細胞を増やすことを見出してきた。つまり、同システムが進むためには、肝臓でERK経路の活性化が起こることが必要だ。しかし、肥満時に肝臓でERK経路がどのようにして活性化するのかは不明だった。そこで今回、肝臓が肥満を感知する仕組みを解明するための研究を行った。
大腸に炎症が起こると肝臓ERK経路が活性化、神経信号伝達システム刺激でβ細胞増加
研究グループはマウスにおいて、高カロリーの食事などによって肥満になると大腸に炎症が起こり、炎症を起こした大腸で生じる炎症性の物質が肝臓に送られることが起点となって、神経信号伝達システムを介してβ細胞が増えることを明らかにした。
肝臓には門脈という血管を介して大腸を含む腸管からの血液が直接流入するため、腸管に着目をして研究を進めた。まず、肥満がない状態で薬剤によって大腸に炎症を起こしたマウスを解析した。その結果、大腸に炎症が起こるだけで、肝臓のERK経路が活性化し、神経信号伝達システムが刺激され、β細胞が増えることがわかった。
肝臓が大腸の炎症を介して肥満の状態を感知していることを発見
次に、マウスに高カロリーの食事を与えて肥満にした時の大腸を調べたところ、炎症が起こり、肝臓のERK経路が活性化してβ細胞が増えていることを確認した。一方で、薬剤によって大腸の炎症を起こさないようにする処理を行いながらマウスに高カロリーの食事を与えたところ、肥満になっているにもかかわらず、肝臓のERK経路活性化は起こらず、β細胞が増えないことが明らかになった。
また、大腸で炎症が起こると、門脈中で肝臓ERK経路の活性化を促す炎症性の物質が増加していた。つまり、肥満の際には、大腸の炎症が引き金となり、腸管のバリア機能が壊されることなどにより炎症性の物質が漏れ出て、肝臓ERK経路の活性化と神経信号伝達システムを介したβ細胞の増加が起こることが判明した。
これらの結果から、肝臓が大腸の炎症を介して肥満の状態を感知していることを見出した。さらに、これが引き金となり神経信号伝達システムを使ってインスリンが増え、血糖値が正常に保たれるという、多くの臓器が関わる体の仕組みが新たに解明された。
糖尿病の新規予防・治療法の開発に期待
今回の研究により、肥満がなくても大腸に炎症が起こるだけでβ細胞が増えることが明らかにされた。炎症性腸疾患という大腸に炎症を起こす病気の患者ではインスリンが増えていることが報告されており、この仕組みはヒトにおいても働いている可能性が十分に考えられる。
「本成果により、β細胞の数を調節して血糖値が正常に維持されるメカニズムの解明に加え、同システムを調節することによる糖尿病の治療法や予防法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース