医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 終末期ケア、家族介護者と医療従事者のすれ違いが感情的ストレスの要因に-科学大

終末期ケア、家族介護者と医療従事者のすれ違いが感情的ストレスの要因に-科学大

読了時間:約 2分59秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2025年05月23日 AM09:30

終末期ケアの関係者協働に焦点を当て、探索的なインタビュー調査を実施

東京科学大学は5月8日、終末期ケアを経験した遺族6名と医療従事者8名へのインタビューを通じて、家族介護者の願望と、医療従事者が行う家族介護者への支援がすれ違い、終末期ケアが意図しない方向へ導かれ、「意図せず、滲み出てくる作業」が生じていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大環境・社会理工学院イノベーション科学系の齊藤駿氏(博士後期課程2年)と杉原太郎准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「the 2025 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems」で発表された。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

死別は普遍的な経験であり、遺族に大きな心理的負担を与える。終末期ケアでは、死への準備ややり残したことを解決するための感情的なサポートが重要となる。日本で進む高齢化に伴い、終末期ケアと遺族の心理的負担への対応が急務となっている。また、医療従事者による感情的な支援の有効性は示唆されているが、効果的な支援手順は確立されていない。先行研究では、故人と遺族の絆の維持や死別後の適応支援研究があるものの、終末期ケア関係者の協働に焦点を当てた研究は少ない状況である。そこで、研究グループは、終末期ケアにおける家族介護者と医療従事者の協働で生じる課題について、探索的に特定するインタビュー調査を実施した。

終末期ケア、・医療従事者間に生じる「意図せず、滲み出てくる作業」を3分類

「意図せず、滲み出てくる作業」(Unintended, Percolated Work(UPW))とは、終末期ケアの中で、家族介護者が意図せずに担うことになった役割や業務、そしてそれに伴って生じる感情的ストレスのことを指す。今回の研究では、終末期ケアにおける家族介護者と医療従事者との間に生じるUPWを、3つのタイプに分類した。

Overloaded Work(過剰な仕事)は、意図しなかった意思決定や突発的な出来事により、介護者が日常業務と両立できないほどの過重負担を負うケースである。例えば、患者に病名を告知しない選択をしたために、気を使いながら介護を続けなければならなくなった状況がこれに該当する。Overlooked Work(見落とされた仕事)は、介護者が「何かしてあげたい」という想いはあるものの、医療的知識やサポートの不足により、それが叶わない状況である。例えば、患者の望みを叶えられなかったことへの後悔が生じる状況がこれにあたる。Overstepped Work(越権的な仕事)は、医療従事者が善意で家族の感情面に深く介入するが、家族の主体性や意思を尊重しきれず、かえって協働の機会を損なうケースである。例えば、医療従事者が「良い看取り」を主導しようとしたが、家族の意図とずれてしまい、疲弊する状況がこれに該当する。

医療従事者の家族介護者支援がすれ違い、「意図せず、滲み出てくる作業」へ

今回、終末期ケアにおける協働のあり方について、終末期ケアを経験した遺族6人と医療従事者8人へインタビュー実施した。その結果、家族介護者の願望と、医療従事者が行う家族介護者への支援がすれ違い、終末期ケアが意図しない方向へ導かれ、「意図せず、滲み出てくる作業」が生じていることを明らかにした。特に、介護を担った家族介護者にとっては、医療従事者や他の家族介護者に対して自らの意向を表明したり、役割分担を促したりすることが難しい状況にあることがわかった。その要因として、大切な人の死が迫っているという状況要因と、その状況の変化がもたらす関係者間の難しい関係要因があった。

看取りのケア体験を向上させる効果的な支援策が必要

終末期ケアのプロセスには「意図せず、滲み出てくる作業」が関与しており、各利害関係者は当初想定していた役割を意図せず超えてしまうことを発見した。同研究結果は、家族介護者の役割調整の困難さについて理解を深めることにつながり、共同作業を円滑化するために感情的な側面を可視化する必要性も示唆している。さらに、「意図せず、滲み出てくる作業」が生じた状況は、見過ごされてきた家族介護者に対する支援機会として捉え直すこともでき、看取りのケア体験を向上させる効果的な支援策が必要であると考えられる。

今回の研究により、急速に進行する高齢化社会において、終末期ケアにおける死別体験による家族介護者の心理的負担を軽減する機会と、家族介護者と医療従事者の協働作業の機会を特定したことは、意義あることと考えられる。今後は、得られた知見を元に、「意図せず、滲み出てくる作業」の終末期ケアへのインパクトを実証する予定である。さらに、「意図せず、滲み出てくる作業」の悪影響を低減するための技術あるいは社会のデザインを行っていく、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 大学生の孤独感が「コロナワクチン忌避行動」につながる可能性-科学大ほか
  • アルツハイマー病、東アジア人特有のバリアントでリスク30%低下と判明-新潟大ほか
  • 著名人のがん公表後、口腔がん診断数が約1.5倍増-名古屋市大
  • 胃がん、化学療法+レンバチニブ+ペムブロリズマブ併用療法の効果判明-国がんほか
  • ライソゾーム病、新たな遺伝子治療法を確立-順大ほか