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固形がんに対するCAR-T開発、肺・膵がんマウスで抗腫瘍効果を発揮-名大ほか

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2025年05月22日 AM09:30

血液悪性腫瘍で高い治療効果示すCAR-T細胞療法、固形がんに対する臨床応用は未実現

名古屋大学は5月8日、固形がんに広く発現する抗原を標的としたキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学の尾﨑正英大学院生(現大阪大学大学院医学系研究科感染制御学特任助教)、平野志帆大学院生、寺倉精太郎講師、清井仁教授、同大大学院医学系研究科腫瘍外科学の砂川真輝特任助教、國料俊男病院准教授、江畑智希教授ら、株式会社CUREDの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal for ImmunoTherapy of Cancer」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

近年、T細胞を遺伝子改変して特定のがん細胞を認識させる「」は、難治性血液悪性腫瘍に対して劇的な治療効果を示し、臨床応用が進んでいる。特にCD19やBCMAといった血液悪性腫瘍特有の抗原を標的としたCAR-T細胞は、再発・難治性B細胞性腫瘍に対して高い奏効率を示し、すでにCD19、BCMACAR-T細胞療法ともに市販されて高い効果を挙げている。

一方で、固形がんに対するCAR-T細胞療法の臨床応用はいまだ実現していない。その最大の理由は、「腫瘍細胞には発現しているが正常組織には発現していない」という理想的な標的抗原がほとんど存在しないことにある。さらに、固形がんではT細胞が腫瘍の局所に行きにくいことや、免疫抑制性の腫瘍微小環境、CAR-T細胞の疲弊など、治療効果を妨げる要因が複雑に絡んでいることが知られている。

複数の固形がんで高発現するEva1に着目、CAR-T細胞のスペーサー長など構造を最適化

研究グループは、Eva1(MPZL2)というタンパク質に注目した。Eva1は肺がん、、膀胱がんなど複数の固形がんで高発現していることが知られており、がんの増殖や転移に関与していることが報告されている。また、Eva1は非常に小型で、細胞表面でTリンパ球に認識された時のシナプス形成を有利にする構造を持つことから、CAR-T細胞の活性化効率を高める可能性が期待された。これらの理由から、Eva1を標的としたCAR-T細胞の開発と最適化を行うことを今回の研究の目的とした。

今回の研究では、まずマウス抗Eva1抗体のヒト化を行い、計16種類のヒト化抗体候補の中から、がん抗原に対する特異性とT細胞の増殖能を兼ね備えた抗体配列を選定した。さらに、CARの構造におけるスペーサー長(抗原とTリンパ球との距離を決定する領域)や、細胞内ドメイン(CD28、4-1BB、CD79A/CD40のT細胞内で反応を増強する領域)を組み合わせた構造を多数作成し、最適な構成の検討を行った。

高い抗腫瘍効果持つEva1CAR-T開発、・膵がんマウスで腫瘍完全消失

その結果、短いスペーサー領域(short spacer)と、4-1BBまたはCD79A/CD40の細胞内ドメインを組み合わせたEva1CAR-T細胞が、in vitroおよびin vivoで優れた抗腫瘍効果を示すことが明らかとなった。特に、肺がん(NCI-H1975)および膵がん(CFPAC-1)を用いたマウスモデルでは、ごく少数のCAR-T細胞投与(1~2×106cells)で腫瘍の完全消失を達成した。

Eva1抗原の発現密度低い正常組織では過剰反応を回避できる可能性

一方で、正常な単球においてもEva1の弱い発現が確認されたため、安全性評価として、CAR-T細胞が正常細胞とがん細胞をどう識別するかの解析も行った。その結果、Eva1抗原の発現密度が多い場合に有効な抗原認識とサイトカイン産生が引き起こされることが分かり、抗原密度の低い正常組織での過剰な反応を回避できる可能性が示唆された。

Eva1CAR-T細胞、固形がんに対する新たな治療選択肢となり得る可能性

これらの成果は、Eva1を標的としたCAR-T細胞が、固形がんに対する新たな治療選択肢となり得ることを示すものであり、今後の臨床応用に向けた大きな一歩となる。

「今回の研究で開発されたEva1CAR-T細胞は、これまで困難とされてきた固形がんに対するCAR-T細胞療法の可能性を拓くものだ。今後は、正常組織との反応性をさらに詳細に評価し、ヒトへの安全性を確認した上で、臨床試験への応用が期待される。また、Eva1は多様ながん細胞に発現するため、さまざまな固形がんへの適応拡大も検討される」と、研究グループは述べている。

 

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