レビー小体型認知症、早期診断可能なバイオマーカーが求められている
東邦大学は5月7日、レビー小体型認知症患者の末梢血赤血球において、疾患関連タンパク質であるα-シヌクレインの量が、健常者やアルツハイマー病やパーキンソン病の患者と比べて顕著に減少していることを発見したと発表した。この研究は、同大理学部生物学科の松本紋子准教授、医療センター佐倉病院脳神経内科の榊原隆次教授(研究当時)、医学部自然・生命・人間先端医学講座の額田均教授、八木橋操六教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Biochemistry」のオンライン版に掲載されている。

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レビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies:DLB)は、アルツハイマー病や血管性認知症とともに「3大認知症」といわれている。DLBは他の認知症と異なり、認知機能が良いときと悪いときが波のように変化することや、抑うつ症状が初期から発現するため精神疾患と誤診されてしまうこともある。
DLBには現在、確定診断法が存在していない。診断は中核的症状(認知機能変動・幻視・レム睡眠期行動異常・パーキンソニズム)に基づいて行われる。加えて、指標的バイオマーカーとして、SPECTまたはPETで示される基底核におけるドパミントランスポーターの取り込み低下、およびMIBG心筋シンチグラフィでの取り込み低下が用いられる。これらの所見を総合して、ほぼ確実(Probable DLB)または疑い(Prodromal DLB)と診断される(日本神経学会 DLBの臨床診断基準2017)。
バイオマーカー候補として「α-シヌクレイン」に着目
パーキンソン病やDLBは、脳内でレビー小体というタンパク質の凝集体ができることが特徴で、その主成分は「α-シヌクレイン」というタンパク質。α-シヌクレインは脳以外にも赤血球中に多量に存在するため、血液検査による早期診断バイオマーカーの候補となりうる。
これまでに研究グループは、健常者の末梢血赤血球でα-シヌクレインのリジン残基が翻訳後修飾を受けていることや、赤血球中総α-シヌクレインの約3割が凝集体を形成しやすいC末端切断型であることを明らかにしている。また、血漿中に含まれる細胞外小胞にも全長型とC末端切断型のα-シヌクレインが含まれていることを報告している。
そこで今回の研究では、健常者ならびにDLB、アルツハイマー病、パーキンソン病と診断された患者の末梢血赤血球と血漿中に含まれる細胞外小胞のα-シヌクレインを定量した。
DLB患者のα-シヌクレイン量は赤血球中で減少、血漿細胞外小胞中では増加
解析の結果、レビー小体型認知症患者の赤血球では、全長型とC末端切断型の両方のα-シヌクレイン量が健常者、アルツハイマー病、パーキンソン病の患者のいずれと比較しても顕著に減少していることを発見した。
一方、血漿中の細胞外小胞中のα-シヌクレイン量は、レビー小体型認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病の患者では健常者よりも多いことを発見した。α-シヌクレインの凝集体は脳だけでなく全身の末梢神経でも検出されていることから、健常者よりもこれらの患者の方がより多くの量のα-シヌクレインが細胞外小胞を経由して全身に伝播し、病気の発症や進行に関与している可能性が示唆された。
血液検査で早期診断できるバイオマーカー開発に期待
また、レビー小体型認知症の重症度と赤血球中α-シヌクレイン量に相関が見られなかった。このことから、患者が中核的症状を呈し受診を検討する前から、既にα-シヌクレイン量が減少していると考えられ、早期診断のバイオマーカーに有用である可能性が示唆された。
「侵襲性が低く簡便に採取可能な末梢血を利用した検査方法が確立できれば、SPECTやPETなど大がかりな検査を行う以前にスクリーニング検査ができ、診断と治療開始までの時間を短くすることが可能になる。今回の発見は、早期診断可能なバイオマーカーの開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・東邦大学 プレスリリース