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ストレスで腸脳相関に異常が起こり糖嗜好性変化の可能性、マウスで解明-東大ほか

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2025年05月20日 AM09:00

「糖に対する好み」が形成されるメカニズムは不明

東京大学は5月7日、マウスにおいて糖摂取後数秒以内に求心性迷走神経が活性化し、その情報が前頭皮質の神経細胞(ニューロン)およびアストロサイトを活性化することを見出したと発表した。この研究は、同大大学院総合文化研究科の原田一貴助教(当時)と坪井貴司教授、お茶の水女子大学理学部生物学科の山田芹華氏(当時)、同大基幹研究院自然科学系の毛内拡助教、東京都医学総合研究所の夏堀晃世主席研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。


画像はリリースより
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近年、食物摂取後に求心性迷走神経を介して腸管から脳へと伝達される速いシグナルの重要性が注目されている。食物中に含まれるグルコースは、複数の輸送体を介して腸管に取り込まれる。輸送体の中でも、ナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT1)による腸管への取り込みが注目されている。腸管に存在する腸内分泌細胞の一部は求心性迷走神経と直接シナプス結合しており、グルコースの取り込み後、素早く求心性迷走神経を活性化する。

この「腸内分泌細胞→求心性迷走神経→脳」へのシグナル伝達経路が、マウスにおける糖に対する好み(糖嗜好性)の形成に関与する可能性が示唆されてきた。しかし、どのような機構によって糖嗜好性が形成されるかは、これまでの研究では明らかになっていなかった。

グルコース投与後数秒で前頭皮質に顕著な活性化、ニューロンとアストロサイトが関与

研究グループは今回、マウスの腸管に直接グルコースを投与した時の脳の皮質全体の応答を観察した。具体的には、ニューロンとアストロサイトが活動することで変化する細胞内Ca2+動態を観察できるGLT1-G-CaMP7マウスを用いて、経頭蓋Ca2+イメージングを行った。

腸管にグルコース、人工甘味料、水を直接投与した際の皮質の応答を観察したところ、グルコース投与時にのみ、投与後3~8秒の間に前頭皮質に顕著な活性化が起きることを見出した。この応答にはニューロンとアストロサイト双方の活動が関与していることが、ファイバーフォトメトリーによって確認された。なお、この応答はSGLT1阻害薬やドーパミン受容体阻害薬、さらには求心性迷走神経を切断することによって消失した。

腸管へのグルコース投与時に起こる前頭皮質の活性化、心理的ストレス負荷で消失

一般に、心理的ストレス負荷状態(慢性的なマイルドな拘束状態)では、糖嗜好性が低下する。そこで、マウスに心理的ストレスを与え、腸管にグルコースおよび水を投与した際の大脳皮質の活動を経頭蓋Ca2+イメージングによって観察した。その結果、腸管にグルコースを投与した際に起こる前頭皮質の活性化は、心理的ストレスの負荷によって消失した。

ストレス状態では腸から脳へのシグナル伝達過程に異常が生じ、糖嗜好性低下の可能性

次に、この活性化の消失が、腸管から脳へのシグナル伝達過程の異常が原因である可能性を検討するために、腸管にグルコースを投与した際の求心性迷走神経の電気的な活動を計測した。その結果、心理的ストレスを負荷したマウスでは、求心性迷走神経の活性化が顕著に減弱していることが判明した。

同結果は、心理的ストレス負荷状態では、腸から求心性迷走神経を介した脳へのシグナル伝達過程に異常が生じ、糖嗜好性が低下する可能性を示唆している。

心理的ストレス下における糖嗜好性変化のメカニズム解明への貢献に期待

さらに今回の研究では、求心性迷走神経から脳内のドーパミン系を介して、前頭皮質のニューロンとアストロサイトの両方が活性化することを見出した。しかし、脳内でどのような経路を介して前頭皮質へ情報が伝達されるかについては不明だ。今後は、この点について明らかにすることで、嗜好性の形成メカニズムを解明できると思われる。

「近年、腸脳相関の不調は嗜好性のみならず、代謝疾患や精神疾患などの発症に関連することが示唆されている。本研究の成果は、腸脳相関に着目したさまざまな疾患の治療戦略に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。

 

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