関節X線画像、骨陰影の重なりが診断を難しくする
北海道大学は5月7日、AIによる関節X線画像の複雑な骨層分離技術の開発に初めて成功したと発表した。この研究は、同大量子集積エレクトロニクス研究センターの池辺将之教授、大学院保健科学研究院の神島保教授、修士課程の王昊霖氏、東京科学大学総合研究院の鈴木賢治教授、欧亜非博士研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、米国フィラデルフィアで開催されたAI関連国際会議「AAAI Conference on Artificial Intelligence」のMain Technical Trackに採択された。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
X線撮影は骨軟部(MSK)疾患の診断やモニタリングに広く利用されている。しかし、関節X線画像では骨陰影が重複して映ることが多く、関節や骨の詳細な診断評価を妨げる要因となっていた。
特に、関節リウマチの診断では、関節裂隙の狭小化(JSN)や骨びらんを詳細に評価する必要があり、骨陰影の重なりがある場合、正確な分析が困難だった。この問題により、診断の精度が低下し、コンピューター支援診断(CAD)の開発にも課題が生じていた。
骨陰影を分離する新たな技術「BLS-GAN」を開発
そこで、今回の研究では「骨層分離(Bone Layer Separation)」という新たなアプローチを導入し、X線画像から重なった骨陰影を分離するAIフレームワーク「Bone Layer Separation GAN(BLS-GAN)」を開発した。この技術は、1)画像生成ネットワーク、2)セグメンテーションベースの識別ネットワーク、3)放射線画像の原理に基づいたリコンストラクターの3つの主要な要素から構成されており、これらを組み合わせることで高精度な骨層画像を生成することができる。
画像生成ネットワークは、関節の上部と下部の骨を独立した層として認識し、それぞれの骨層画像を生成する。次に、セグメンテーションベースの識別ネットワークが、生成された画像内の重なり領域と非重なり領域を識別し、より正確な骨の質感を保持するよう調整を行う。最後に、リコンストラクターがX線画像の物理的特性を考慮しながら、骨陰影重複の影響を補正し、よりリアルな骨層画像を再構成する。
合成画像を用いた事前学習で精度向上、熟練技師による評価でも遜色なし
さらに、学習の安定性を向上させるために合成画像を用いた事前学習を導入した。人工的に作成したX線画像を用いることで、ネットワークが適切な骨層分離のパターンを学習しやすくなり、実際のX線画像に対しても高い精度で適用できるようになった。このアプローチにより、従来の技術では困難であった骨層の分離が可能となり、X線画像の診断精度が向上した。
このフレームワークの性能は、視覚的チューリングテスト(Visual Turing Test)によって検証された。経験豊富な診療放射線技師が、実際のX線画像とBLS-GANによって生成された骨層画像を識別するテストを行った結果、生成画像は実際のX線画像とほぼ区別がつかないほどの品質であることが確認された。さらに、関節リウマチのJSN評価においても、従来の方法よりも精度と安定性が向上することが示された。
さまざまなMSK疾患の診断への応用に期待
今回開発した技術の活用により、個々の骨層を独立して評価できるようになり、関節リウマチの診断がより正確かつ迅速に行えるようになることが期待される。また、従来のX線画像では困難であった、手関節、膝関節、股関節などの構造的に複雑な関節の診断にも応用が可能と考えられる。
「この技術は関節リウマチだけではなく、変形性関節症などの罹患者の多い他のMSK疾患の診断にも役立つ可能性がある。今後は、より多くの臨床データを用いた検証を行い、実際の医療現場での導入に向けた研究を進める」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・北海道大学 プレスリリース